■医療■ 患者の手元で医療情報を管理する

 患者本人が自分の医療情報を管理し、健康状態を把握して、病院は情報管理にかかる時間や人的コストを減らせる──。

 そんなアプリを開発したのは、佐賀大学医学部附属病院だ。

 顔写真の入ったQRコード付きの自己疾病管理カード「MIRCA(ミルカ)」をスマートフォンやタブレットの専用アプリで読み取ると、診察記録や検査データ、処方された薬などの医療情報が画面に現れる。一昨年の秋からサービスがスタートし、これまでに同病院で治療を受けた患者のうち希望者約500人がミルカを作成している。

 診察を受けると、ほぼその日のうちに、情報が更新される。開発にあたった同病院医療情報部の藤井進副部長によると、ミルカの裏面に書かれたID番号を共有し、遠く離れて住む娘や息子が親の通院状況や検査結果を把握するのに役立てているケースもあるという。

●「同意」作業が不要に

 病院周辺にある約20カ所の調剤薬局にもiPadを配布し、ミルカ利用者がアプリを利用して薬情報にアクセス、薬剤師に相談できる環境も整えた。

「患者本人が医療情報を把握していることで、たとえば旅行先で知らない病院にかかっても、『こんな病気で普段こんな薬を飲んでいます』という情報を医師に正確に伝えられます」

 と藤井副部長は話す。

 病歴・通院歴を含む医療データを病院ではなく患者が管理するというシステムは、医療機関にとってもメリットが大きい。効率化につながるからだ。

 カルテの情報を医療機関が保持する場合、他の医療機関との共有にあたってはその都度、医師らが一つひとつのデータについて患者に説明して共有の同意を得る必要があり、時間と手間がかかっていた。同意書の管理も必要だ。だが、患者がアプリを使って医師に自らの医療情報を提示するなら、「同意」にまつわる作業が不要になる。

「使い進めれば、二重の検査や薬の投与などの無駄もなくなり、医療費削減にもつながると考えられます」(藤井副部長)

 セキュリティーは、患者自身が設定するパスワードとカードにあるQRコード、またはID番号の2段階。ミルカ専用のアプリでしか情報を引き出せないシステムを整えており、今後は他の病院との連携も検討している。

 医療機関でのアプリ活用が広がれば、診察室の光景は確実に変わっていく。(ライター・山口亜祐子)

AERA 2016年9月19日号