ノルマのどんぶり飯2杯を泣きながら押し込んだ後、吐いてから練習…(※イメージ)
ノルマのどんぶり飯2杯を泣きながら押し込んだ後、吐いてから練習…(※イメージ)

根性論で健康を害するほどの練習を強いられ、絶対権力者の顧問に意見もできない。そんなブラック部活慣れした子どもたちが、将来ブラック企業に狙われる?(ライター・島沢優子)

 首都圏に住むパート勤務の女性(40代)の長男は、昨年まで私立高校のサッカー部員だった。昨年、高校の部活の集大成でもある全国高校選手権の予選で、猛練習の割に早々と敗退した。今年も後輩たちは早い段階で公立高校に敗れたと聞いた。

「やっぱりねって感じ。サッカー推薦で上手な子を入れても、監督がつぶしてしまう。ケガや故障のケアはしないし、選手は使い捨て状態ですから」

 ちょうど1年前、連休に合宿があった。出発前日、息子は高熱で寝込んでいたが、「監督から来るように言われた」とフラフラになりながら家を出ようとする。聞けば監督から、「俺は熱を出しても練習を休んだことはない」と言われたという。顧問、副顧問とも30代半ばで、ともに全国大会出場経験があった。

●俺らはもっとひどい

「俺は捻挫くらいで休まないとか、常に高校時代の自分を基準にする。目の前の部員の状況なんて見ようともしない。指導以前の問題。安全管理さえできないんだから。とにかく死なずに卒業してと祈る毎日でした」

 他校は、夏場は北信越など避暑地で合宿するのに、「日本一暑い所でやろう」という顧問の一声で、わざわざ猛暑で名高い近県の町へ。「全国高校選手権予選が始まる8月末の暑さに慣れるため」が理由だった。

 合宿初日、朝の集合に遅刻した部員がいた。顧問は全員集めた部屋で説教をした後、バリカンを置いて出ていった。暗黙の「全員丸刈りの厳罰」だ。3ミリ以下の坊主頭で数日間、炎天下にさらされ続けた部員たちの頭皮は日焼けで水ぶくれになるやけど状態。熱中症で救急搬送されたり、体調を崩す部員が続出した。

 戻ってきた息子の姿に驚いた女性は顧問らに、「そこまでやる必要があったのか」と問いただしたが、「命じた覚えはない。生徒たちが自主的にやったこと」と言い訳した。顧問らが部員に言う常套句は「俺らの時代はもっとひどかった」だった。

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