子どもたちが甲状腺がん発症のリスクを負うこととなった、東京電力福島第一原発の事故。県の検査に対する親たちの不信感は大きく、一方で追加検査を行う病院は少ないなど、問題は多い。

 そんななか、追加検査を行う数少ない医師らが、一様に必要だと感じているのは、検査画像の本人開示だ。現状では県個人情報保護条例に基づき、ややこしい手続きを踏まないと見られない。

 本人が未成年の場合には、法定代理人(親)が自身の戸籍抄本を取る。それから自己情報開示請求書に記入し、県政情報センターへ郵送する。請求が認められれば2週間ほどで画像が送られてくる。慣れないと時間がかかる。例えば戸籍抄本の請求書にある「筆頭者」の記入欄に、だれを書けばいいのか迷う。福島県の場合、避難生活で家族と離れ離れというケースもあるので、余計に難しい。開示請求書にしても、狭い記入欄に請求内容などを、具体的に書き込まなくてはならない。

 郡山在住で2歳の女児を持つ舘(たち)明子さん(42)がこの制度を知ったのは今年の春先、知り合いが開いた勉強会だった。

「娘は原発事故直後の4カ月間で、少なくとも1.1ミリシーベルトを被曝し、いまも年間1ミリシーベルトを超える場所に住んでいます。健康被害は起きないという県立医大の説明は、信じられないし、開示請求しないとわが子の画像が見られないのもおかしい。状況を変えるためには、一人でも多くの人が声をあげていかないと」

 県への開示請求は、この1年半で200件を超えた。今でこそ、開示を拒否されるケースはなくなったが、はじめは違った。新関まゆみさん(53)は昨年6月、当時高校生だった娘の甲状腺画像の開示を求めた。ところが、

「最初はほったらかしでした。催促すると、ようやく動き始めましたが、当初、CDで画像データを出すと言っていたのに、結局は紙の写真になった。情報を出し渋り、実態を小さく見せようとしているのではないか」

 北海道がんセンターの西尾氏は、県の姿勢に首をかしげる。

「原発事故で放出された放射性ヨウ素を吸引したことで、子どもたちは将来的ながん発症リスクを負った。永続的に比較データを取るためにも画像は必要。そのためには本人に渡して自己管理してもらうのが一番良い。そもそも画像は本人のもの。病院は預かっているに過ぎない。それなのに出し渋るのは、証拠を残して後々責任を取りたくないからではないかと勘ぐってしまう」

ジャーナリスト 桐島瞬

AERA  2013年11月18日号より抜粋