2020年の東京での夏季五輪開催が決定した。しかし、周囲から聞こえるのは喜びの声ばかりではないようだ。

 都内で派遣社員として働く女性(34)は、複雑な思いで東京開催決定のニュースを見た。招致活動で猪瀬直樹都知事が得意気に、「五輪開催準備基金として45億ドル(約4500億円)がキャッシュで銀行にあるんです!」と話していたのを思い出したからだ。そんなお金があるなら、雇用対策に使ってよ! 怒りしかわいてこなかった。

 メーカーの事務職だが、来年3月で派遣会社との契約は終わる。その後のことは決まっていない。新卒で社会に出た2003年は就職氷河期のただ中。就職活動に失敗し、そのまま非正規の状態で働いている。抜け出したい気持ちはあるが、資格もなく来年35歳の自分が正社員になるのは難しいと思う。婚活もうまくいっていない。
 
 前回、東京五輪が開催された1964年には社員といえば“正規雇用”を指した。その後、高度経済成長の果てのバブル経済が崩壊し、非正規雇用という形態が生まれた。その割合は12年には35.2%にものぼる。植木等がお気楽なサラリーマンを演じて大ヒットした映画「ニッポン無責任時代」が公開されたのは62年。今や、正社員は特権階級だ。

 都内の図書館で非常勤として働く男性(30)も、東京開催を素直には喜べない。月収は手取りで約16万円。もちろんボーナスはない。頑張って昇進しても、給料は18万円までしか上がらないという。

「生活設計を組めないばかりか、3年ごとの契約が更新されない可能性もある」

AERA 2013年11月11日号より抜粋