世界文化遺産登録に沸く富士山5合目。多くの観光客や外国人も訪れる(撮影/写真部・関口達朗)
世界文化遺産登録に沸く富士山5合目。多くの観光客や外国人も訪れる(撮影/写真部・関口達朗)

 世界文化遺産に登録された富士山は1日、山開きを迎えた。毎年、30万人前後が登る富士山だが今年はさらに増加すると見込まれ、3割増という試算もある。そうした中、40代、50代の働き盛りが、世界遺産への登録を機に、富士山登頂に挑戦している。

 会社員に主婦、親子連れ、シングルマザー…。仲間たちと一緒に登る人もいれば1人で登るという中高年も多い。そんな彼らに共通するのが、「年齢的にも、登れる今のうちに登ろう」という点だ。

 富士山に登るには、四つの主な登山道がある。山梨側に一つと静岡側に三つ。夏山シーズン(7月1日~月下旬)には40近くある山小屋が営業し、ガイド付きツアーも頻繁に出ている。夏の富士山は、天気さえ良ければほとんどの健康な人は登れるのだ。

 一般に、富士山は「登りやすい山」と考えられている。しかし、山に危険はつきもの。しかも相手は「日本一の山」だ。昨年7、8月に富士山では35件の山岳遭難(警察庁発表)が起き、死者も1人出ている。自然を軽く見れば、痛いしっぺ返しをくらう。

「富士山は、中級以上のレベルと考えてほしい。心肺と筋肉に負担がかかり、しかも、中高年になると脚力が衰え体のバランスも悪くなり転倒しやすくなります」

 とアドバイスするのは、石井スポーツ登山学校講師で富士山ガイドの天野和明さん(36)。周りに木のない吹きっさらしの登山道は、強風や豪雨などの影響を受けやすく落石の恐れもある。さらに夏山は、雷に注意が必要だという。

 天野さんは登山前の準備として(1)トレーニング(2)装備(3)予習の大切さを説く。

「理想は、低山から登り始め徐々に筋肉をつけるトレーニングをしてほしいが、通勤電車の中でつり革をつかんだ状態でつま先立ちしてふくらはぎを鍛えるだけでも効果はある。また、事前に歩く距離や登山スケジュールなどを予習しておけば、気持ちの余裕も生まれます」

 しかも、夏とはいえ、富士山頂の明け方の気温は0度前後。装備はどうすればいいのか。アウトドアベンチャー企業「フィールド&マウンテン」(さいたま市)代表で、富士山ガイドとしても活躍する山田淳さんは、中高年の初心者こそ登山靴と雨具はしっかりしたものを準備してほしいと強調する。

「ストックは腰や膝への負担を軽くしてくれ、強い紫外線から目を守るサングラスもあれば安心。後は、防寒着であれザックであれ、登山専用でなくても市販のもので代用できます」

AERA 2013年7月22日号