アンジェリーナ・ジョリーが乳がん予防のために乳房を切除したことが、大きな反響を呼んでいる。日本では予防として両乳房を切除した例は、まだない。ただ、片側の乳房に乳がんが見つかり、もう片側の「健康な側」の乳房を予防のために切除した例は、数例ある。

 ある女性は右胸のしこりが乳がんだと診断を受け、両胸を全摘し、乳房の再建手術を受ける決断をした。母親や親族の何人かが卵巣がんや乳がんだったからだ。遺伝子検査が陽性だったことも拍車をかけた。ただまだ独身。結婚し、子どもができた時に、授乳ができなくなる。乳腺外科医も相談を受けた形成外科医も本人の意思を何度も確認したが、決心は固かった。

 乳房再建は、ジョリーと同じ、エキスパンダーという組織を広げる器具を埋め込み、人工乳房(シリコン・インプラント)と入れ替える方法にした。その女性の術後の写真を見せてもらったが、術前と見分けがつかないほど、自然な仕上がりだった。

 乳房全体の皮膚、乳頭と乳輪は残した。皮下の乳腺を摘出する時も、人工物を挿入する時も、切る位置を乳房の脇にしたため術痕も正面からは見えない。シリコンもグミ状のタイプにし、乳房の張りと柔らかさに近づけた。

 ジョリーの報道で岩平さんが気になったのが、再建手術の治療期間の短さ。乳房切除後、エキスパンダーに生理食塩水を徐々に注入して風船のように膨らませることで、縮んだ皮膚を伸ばしていく。最後にエキスパンダーを抜いてシリコンインプラントと入れ替えるまでの期間は、半年以上みるのが世界的な標準だが、報道によると治療期間は3カ月。拙速に入れ替え手術をすると、後々、胸が縮んで形が崩れることも懸念されるという。

 日本では再発防止のための予防的切除であっても、社会的なコンセンサスは得られておらず、一例ずつ倫理委員会を通して実施するのが前提だ。さらに費用は全額自費。「片方の乳房だけで、乳房切除と再建手術では200万円クラス」(岩平さん)という。

AERA 2013年5月27日号