首都圏では、保育園のすぐ隣に住居が立ち並ぶことも多いが、「無音」の施設にするのが本当に社会のためなのだろうか(撮影/写真部・久保木園子)
首都圏では、保育園のすぐ隣に住居が立ち並ぶことも多いが、「無音」の施設にするのが本当に社会のためなのだろうか(撮影/写真部・久保木園子)

「保育園で子どもの声がうるさい」と近隣から苦情が出ている現状を紹介したところ、多くの反応が。議論沸騰の問題に具体的な解決策はあるのか。

 前回も触れたが、ドイツでは2010年にベルリン市で、翌年には連邦議会で、騒音などの迷惑行為に関する法改正が行われている。これにより、子どもが発する「騒音」は〈成長の表現〉であり、〈正当な発達の可能性を保護するもの〉とされ、子どもや保育施設の関係者が出す音を理由に損害賠償を請求することはできなくなった。

 だが国際的な法律問題に詳しい作花知志弁護士は、こうした解決法は日本にはふさわしくないという。

「狩猟社会だったドイツは権利主張を重んじる文化で、騒音など基本的な生活を脅かす不法行為には異議を申し立てる考えが主流だったのだと思います」

 一方の日本は元来、農耕社会の中で和を重んじる文化。そこが根本的に異なるという。

「日本の民法は明治時代にドイツ法を基にできたもので基本的な内容は同じですが、法律の在り方は、それを使う人の光の当て方によって大きく異なります。民事一般に言えることですが、日本は世界的に見て調停の数が非常に多い。これは、お金や法の力で解決するより話し合いを求める日本人の傾向の表れではないでしょうか」(作花弁護士)

 実際、国内で子どもの騒音問題が裁判に発展したケースは少ない。それ以前に、住民と保育施設の関係者らが話し合える場を行政が設けるなどの工夫ができる、と作花弁護士は言う。

AERA 2012年12月10日号