日本の論壇を代表する、小林よしのりさん、宮台真司さん、東浩紀さんが、現在の危惧すべき日本の現状について論じ合った一冊『戦争する国の道徳』。



「多くの読者が知るように、小林氏と宮台氏の政治的立場はまるで異なっている。ひとことで言えば、小林氏は保守で宮台氏はリベラルである。歴史認識もかけ離れている。かつては鋭く対立し、罵り合いのような論戦があったことも知られている。

 にもかかわらず、本書では二人の意見は妙に接近している。その接近は、二人の思想が変化したというよりは、それだけ二〇一五年現在の政治状況が危機的であることを意味している。本書は結果的に、『ネトウヨ』化する安倍晋三政権に抵抗する、『人民戦線』の設立宣言のような趣の書物になった」



 上記のごとく東さんが綴るように、本書では沖縄の米軍基地や福島の原子力発電所をはじめとする、日本が抱えるさまざまな問題を巡り、普段なかなか可視化されにくいその本質に正面から迫っていきます。



 たとえば現在、日本が抱える根本的な問題のひとつは、会社や家族などの"共同体の崩壊"だと東さんは言います。



「理想を言えば、一人ひとりに承認が与えられ、各人が自分が守るべき人、守るべき郷土をはっきり認識してるような社会が望ましい。しかしそれは、近代化の過程で壊れてしまった。人々は共同体から剥ぎ取られ、都市に集められ、流動するアトム化した個人と化した」(本書より)



 そこで戦後、近代化によるアトム化を押さえ込む装置として、日本で作られたのは"会社"。終身雇用という"擬制的な家"に所属することによって、「故郷を捨てた団塊世代の人たちも、その『家』に守られながら、そのなかである種の「承認ゲーム」を展開し自分のアイデンティティを守ってきた」と東さんは指摘。



 しかし現在では、疑似家族としての機能を担っていた会社までもが崩壊。また、血縁主義である欧米をはじめとする国々にたいし、地縁主義の日本では「あるていどの強制力を持って複数の人間が長いあいだ住み続ける場所を確保しないと、肝心なときに相互の支え合いも発生しないし、アイデンティティの感覚も生まれない」(本書より)ことからも、地域・家族・会社という共同体が崩壊した今、まず重要なのは、"集まって住むこと"の大切さを再び認識することなのではないかと東さんは説きます。



「人々が集まって住むことが苦手な社会では、どんな郷土愛も育たないし、どんな福祉政策もうまく機能しない。日本再生のためには、まずは『集まって住むこと』の大切さから立て直していかなければならない」(本書より)



 いま私たちが本当に考えるべき問題とは何なのかを気づかせてくれる、刺激的な議論が繰り広げられていきます。