ドラァグクイーンとしてデビューし、テレビなどで活躍中のミッツ・マングローブさんの本誌連載「アイドルを性(さが)せ」。今回は、「大谷翔平選手」について。

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 ここまで来たら多少は致し方のないことかと思いますが、痺れを切らしたかのように「大谷翔平のお嫁さん候補は誰?」的な記事が増えた気がします。今までどんなにお熱を上げているジャニーズ結婚しようと動じなかった私が、なぜかその手の見出しを目にする度に心がざわつく。そんな自分に反吐が出そうです。ならば、世の大谷ファンの女性たちの中には、もっと本気で歯ぎしりをしている人もいるのかもしれません。お察しします。

 だいたいそんな出鱈目(でたらめ)な推測にどうして人は踊らされるのか。コロナ禍において散々「エビデンスを示せ!」と躍起になっていた私たちはいったいどこへ行ってしまったのか。「女子アナと結婚するのだけは勘弁して」なんて感情論が、立派な職業差別にあたるという事実すらすっ飛ばして、2023年の世界で48歳にもなって、私は何をヤキモキしているのか。

 かつては、あらゆる人気者が適齢期に差し掛かると、のべつまくなしに「ご結婚のご予定は?」と問われるのが世の常でした。しかし、いつしか「そのような質問はデリカシーに欠ける」という風潮が浸透すると同時に、熱烈な支持者からの猛反発を買うこともあり、近年は特に「人気独身アスリートの結婚話」が、メディアにおいてタブー化しています。確かに「プロとアマチュアでは扱い方を区別すべき」という理屈も分からなくはありません。ただ、「野球」が持つ大衆性のためにも、そして私のような低俗で邪なファンのためにも、いわゆる「聖域(デリケート)アスリート」のリストに大谷さんの名前が入らないようにするのは大事かと。

 一方で気になるのは、「一流選手の奥さんになる人は、夫を陰で支える“内助の功”が求められる」という使い古された論調です。野球はもとよりサッカーなどでも当たり前のように蔓延る時代錯誤な概念と言えるでしょう。大谷さんの「お嫁さん候補」の記事にも、「相手は日本的な“良妻”でなければ」などと、「ゲイのくせに保守的」と言われる私ですら「いつの時代の話よ?」とのけぞるようなことが書かれています。さらには「大リーガーの妻ともなれば英語が話せて当然」というのも、なかなかな「お上りさん的発想」です。

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ミッツ・マングローブ

ミッツ・マングローブ

ミッツ・マングローブ/1975年、横浜市生まれ。慶應義塾大学卒業後、英国留学を経て2000年にドラァグクイーンとしてデビュー。現在「スポーツ酒場~語り亭~」「5時に夢中!」などのテレビ番組に出演中。音楽ユニット「星屑スキャット」としても活動する

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