
ランナーを一人出すものの、ダブルプレーでツーアウト。バッターは大谷のチームメイト、強打者トラウト。出来過ぎたシナリオだけどいいじゃない! 思わず息を呑む。……「さんしーんっ!!」。ラジオの実況アナが叫ぶ。こちらも思わずガッツポーズ。車内はまだ息を呑んだまま……なぜ喜ばん!? 優勝だぞ!
アナウンサーが続けました。「高橋宏斗っ!! 若さでトラウトを抑えましたっ!!」……また高橋出てきた!? なんでだよ? 下がったピッチャーがまた投げるなんて、高校野球かっ!? 「五回表が終わってスコアは3対1!」……。どういうことだよ!? スマホの画面を見るとなぜかラジコのタイムフリー機能によって試合が巻き戻され、私は五回表を聴いていたみたいです(2回目)。
そしてたまたまバッターが同じトラウトだったという。凡ミスに気づいた瞬間、車内で歓声。日本、優勝したみたい……。
だからね、私のWBCはまだ終わっていないんですよ! ちくしょう、タイムフリーめ! 今度聴いたらカネヤン(金田正一)が投げてるくらい、気を利かせてみろっ!(泣) とりあえず日本、おめでとう。
春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/1978年、千葉県生まれ。落語家。2001年、日本大学芸術学部卒業後、春風亭一朝に入門。この連載をまとめたエッセー集の第1弾『いちのすけのまくら』(朝日文庫、850円)が絶賛発売中。ぜひ!
※週刊朝日 2023年4月14日号