リーヌ・ルノー/ 1928年生まれ。フランスを代表する歌手、俳優。85年に「エイズと闘う芸術家協会」を設立し会長を務めるなど、エイズ撲滅のアイコン的な存在でもある。最新作「パリタクシー」は4月7日から公開。(c)2022
リーヌ・ルノー/ 1928年生まれ。フランスを代表する歌手、俳優。85年に「エイズと闘う芸術家協会」を設立し会長を務めるなど、エイズ撲滅のアイコン的な存在でもある。最新作「パリタクシー」は4月7日から公開。(c)2022 - UNE HIRONDELLE PRODUCTIONS, PATHE FILMS, ARTEMIS PRODUCTIONS, TF1 FILMS PRODUCTION

 映画「パリタクシー」が4月7日から公開される。主演はフランスの国民的スターであるリーヌ・ルノーさん。94歳という年齢でも若々しくいられる理由とは?

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 私が主演した「パリタクシー」は、老人ホームに入居しようとする女性マドレーヌがタクシー運転手と出会い、パリの思い出の地を巡りながら自身の人生を振り返っていく物語です。マドレーヌは私が演じたなかで最も素敵なキャラクターで、私に一番似ていると思います。年齢もほぼ同じですし、私も彼女と同じように多くの困難を乗り越えてきました。

 1944年、16歳のマドレーヌはナチスに父を殺され、パリ解放のためにやってきたアメリカ兵士と恋に落ちます。わずか3カ月で彼が帰国したあとに妊娠がわかり、未婚で子どもを産みます。その後に結婚した夫に暴力を振るわれ、幼い息子にも危険が迫った彼女はある行動に出ます。

 私は1945年にパリで初めて歌のオーディションに合格し、ムーラン・ルージュやカジノ・ド・パリなどでシャンソン歌手として活動し始めました。そして中絶が合法になる前、17歳のときに妊娠したのです。当時の私は不法に中絶をするしかありませんでした。

 70年代の半ばまで、フランスでは中絶は合法でなく、女性は夫の承諾なしに自由にお金を使うこともできませんでした。私の曽祖母や祖母も夫から暴力を受けていましたが、でも彼女たちは強く生きました。彼女たちの人生は私に、自分の人生を生きることと、闘う力を与えてくれました。特に私が80年代の半ばからエイズ撲滅運動に注ぐ力を与えてくれたと思います。私もマドレーヌも闘う女性なのです。私たちは自分で自分を守り闘うことができるという点で共通しています。

(c)2022
(c)2022 - UNE HIRONDELLE PRODUCTIONS, PATHE FILMS, ARTEMIS PRODUCTIONS, TF1 FILMS PRODUCTION

 劇中でマドレーヌが言う「ひとつの怒りでひとつ老い、ひとつの笑顔でひとつ若返る」というセリフが一番好きです。自分が明るくハッピーな性格でよかったと思っています。いまも人生が喜びに満ちています。80年前から応援してくれているファンもいますし、若者も新たなファンになってくれています。だからこそ94歳のいまも俳優として歌手として、若々しく活動できているのだと思います。

 元気の秘訣は「いま生きていられることを幸運だと思うこと」でしょうか。人生は難しく、常に闘いでもあります。それでも人生は美しいものです。まずは自分を愛すること。それによって人生は美しくなります。

 女性をめぐる社会状況はよくなってきているとは感じています。しかしいまもさまざまなフェミニズム運動が行われ、多くの人が闘っています。いまでも男性のなかには自分を女性より優れていると思っている人がいて、常に女性は自分を擁護しなければなりません。時代が変わってきたことをうれしく思いますが、やるべきことは残っています。

(構成/フリーランス記者・中村千晶)

週刊朝日  2023年4月14日号