──本職のiPS細胞研究はいかがですか?

 基盤的研究と、再生医療用iPS細胞ストック事業を進めています。医療用のiPS細胞を予めストックしておくことにより、品質を確認したiPS細胞を研究機関や企業に迅速に提供することを目的としています。拒絶反応を起こしにくい免疫型を持つ健常者の血液から医療用のiPS細胞を作製し、日本人の約40%に拒絶反応の少ないiPS細胞を提供することが可能となっています。また、これら医療用iPS細胞において、ゲノム編集技術を用いて免疫反応に関わる遺伝子を書き換える作業を行っており、2022年には新たな臨床用iPS細胞の提供を開始する予定です。ゲノム編集iPS細胞は、日本のみならず世界中のほとんどの患者さんに対して拒絶反応の少ない再生医療を提供できると期待しています。さらに25年ごろを目標に、患者さん自身の細胞からつくったiPS細胞(マイiPS)を短期間で作製する技術開発を進めています。

──iPS細胞ストックを使った多くの臨床試験が始まっています。

 パーキンソン病、網膜や角膜の病気、そして心不全に対する手術が行われています。また、軟骨損傷や脊髄に対する臨床研究の開始が厚生労働省から認められています。さらに血小板輸血、がんに対する免疫療法、1型糖尿病などに対する臨床試験への準備が着々と進んでいます。これらとは別に、ストック以外のiPS細胞からつくった血小板や免疫細胞を、それぞれ血液疾患やがんの治療に用いる臨床研究も実施されています。

──世界との競争は?

 iPS細胞を使った再生医療では、日本が世界をリードしています。新しい治療法の研究開発においては、欧米で開発されたものを日本に輸入するという流れが一般化していますが、iPS細胞を使った再生医療においては、欧米が日本のまねをしようとしています。しかし、iPS細胞のもう一つの重要な医療応用である創薬については、臨床試験に至ったプロジェクトが少ないように感じています。また、iPS細胞を使った新型コロナウイルスの研究においても欧米が先行しています。

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