ラジオやテレビの青春期は戦後高度成長の波に乗る日本の姿とも重なる。NYの摩天楼を舞台にしたニール・サイモンの作品を、彼と同じく放送業界でキャリアを始めた三谷は見事に換骨奪胎し、昭和の放送黎明期に重ね合わせることができる。

 ロシア育ちでロシア訛り、どこかとぼけた味わいの放送作家ヴァルを演じるのは山崎一。才気煥発の作家の中で「放送人の良心」をさりげなく醸し出し、この演目に「品格」を与えていた。彼は以前このコラムで紹介した『十二人の怒れる男』と合わせ、この作品で本年度読売演劇大賞男優賞にノミネートされている。

 涙と笑いと喧嘩と熱情の演目に、「あの頃」の熱い気持ちを思い出した。コロナ禍の世の中だけど、人生まだまだ捨てたものじゃないと気づかせてくれるのは、演劇の醍醐味ではなかろうか。

延江浩(のぶえ・ひろし)/1958年、東京都生まれ。慶大卒。TFM「村上RADIO」ゼネラルプロデューサー。国文学研究資料館・文化庁共催「ないじぇる芸術共創ラボ」委員。小説現代新人賞、ABU(アジア太平洋放送連合)賞ドキュメンタリー部門グランプリ、日本放送文化大賞グランプリ、ギャラクシー大賞など受賞

週刊朝日  2021年2月12日号

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延江浩

延江浩

延江浩(のぶえ・ひろし)/1958年、東京都生まれ。慶大卒。TFM「村上RADIO」ゼネラルプロデューサー、作家。小説現代新人賞、アジア太平洋放送連合賞ドキュメンタリー部門グランプリ、日本放送文化大賞グランプリ、ギャラクシー大賞、放送文化基金最優秀賞、毎日芸術賞など受賞。新刊「J」(幻冬舎)が好評発売中

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