日本の死生観に魅せられた米国人教授が危惧する“葬式不要論” 〈週刊朝日〉|AERA dot. (アエラドット)

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日本の死生観に魅せられた米国人教授が危惧する“葬式不要論”

大崎百紀週刊朝日
※写真はイメージです (GettyImages)

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 心の支えだった親が亡くなると、多くの人はこう思うだろう。「実家に頻繁に帰ればよかった」「もっと優しい言葉をかけておけばよかった」。たとえどんなに看病や介護をしても、悔いが残るのが親との別れだ。後悔や悲しみに苦しみ、押し潰されぬよう心得ておくべきことは――。

 故人を偲(しの)ぶため月命日に遺族が集まる日本古来の知恵が、遺族の心のケアにつながる──。そう説くのは、米国の宗教学者で京都大学特任教授のカール・ベッカーさんだ。

「今やイギリスやアメリカの一部の病院でも取り入れられています。遺族を病院の会議室に招いて食事をしたり、歌を歌ったり泣いたり笑ったりしています」

 遺族の孤独や不安な気持ちを和らげ、不眠症やうつ、拒食症、過食症などを防ぐ効果があるというのだ。

 ベッカーさんは日本人の死生観に魅せられ、研究してきた。かつての日本は、魂は永遠と捉え、人は死んでもそばにいるという感覚があったという。だから、月命日に遺族が集まり、それがグリーフケアにつながった。

「日本の慣習なのに、今や日本ではおろそかになっています。欧米ではcontinuing bonds(続く絆)と訳されて紹介されています」

 簡略化が進むのは月命日だけではない。仏壇を置かない家が多くなったほか、葬儀も火葬だけの「直葬」、通夜を行わない「1日葬」、通夜、葬儀の参列者を限定する「家族葬」を選ぶ人が増えてきた。だが、ベッカーさんは、葬儀をきちんと行うこともグリーフケアになると指摘する。

「親が『葬儀は不要』と言い残したとしても、親しくしていた親戚や友人に声をかけて行うべきです。それが残された側の心の傷を癒やすだけでなく、そこでつながった人との交流が遺族のその後の人生の支えになるからです」

「親が『やらなくていい』と言うのは子どもたちに迷惑をかけたくないという思いからで、遺族にとって葬儀がどれだけ意味深いかはわかっていないと思います。葬儀は故人の大切な人とつながるラストチャンスなのです」

 初七日法要と葬儀を一緒の日に行うことも多いが、ベッカーさんはこれにも異を唱える。

「初七日、四十九日、初盆、月命日などで集まることで、遺族が早く立ち直れる。これはいろいろな研究で証明されているほど明白です」

(本誌・大崎百紀)

週刊朝日  2020年12月25日号


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