林:マネジメント力が必要になってくるわけですね。

井上:いろんな面で透明性を求められ、情報も皆さんに行き届かせなければいけない時代ですから、監督というのは、現場でのスペシャリストだけじゃなくて、ゼネラリストといいますか、多角的な視野を持った取り組みができないと厳しいかなと思いますね。

林:同じ監督でも、ロンドン大会のときに男子の監督をなさった方(篠原信一氏)は、テレビのバラエティー番組によくお出になってましたけど、あの方はもともとああいう方なんですか(笑)。

井上:アハハハ。あの方は、現役時代はインタビューされるのも好きじゃなかったんですよ。

林:まあ! それがあんなふうになっちゃったんですか(笑)。

井上:柔道界にはライバルといいますか、越えなければいけない壁があるんですが、私にとってはその壁の一人だった方で、あの篠原先輩がいなかったら、私はここまでの成長がなかったと思うぐらいに目標としていた方なんです。

林:そうなんですか。

井上:全日本柔道選手権という無差別級の日本一を決める大会があって、そこでの優勝がわれわれにとってすごく大きな目標だったんです。そこで2度ほど篠原先輩と対戦させてもらってぜんぜん勝てなくて、4年越しで何とかその壁を越えて全日本チャンピオンになって、そこから世界チャンピオン、全日本チャンピオン連覇と達成できたんです。あの方の存在がなかったら、あそこからのもう一歩のレベルアップはなかったんじゃないかと思ってますね。篠原先輩自身はすごくおもしろい方で、男気のある方なんですよ。

林:日本の柔道の監督といったら、雲の上の方だと思ってたものですから、バラエティーで突然おもしろいことをなさるんで、ちょっとびっくりしました(笑)。

井上:柔道家はあまりしゃべっちゃいけないとか、表に出ちゃいけないとか……。

林:寡黙なイメージがあります。

井上:そういうイメージとのギャップが、皆さんにウケたんじゃないですかね。柔道をよりいっそう発展させていくためには、もっと多角的に見たうえでの柔軟な対応が、これからは必要になってくると私は思ってますけどね。

次のページ