井上:そうですね、ほんとに。オリンピックって何かしら起きるんですよね。リオのときも、ちょうどあの時期、ジカ熱でしたか。蚊に刺されて感染するというのが蔓延していて、そのためにオリンピックを断念した選手もほかの国にはいました。だから選手たちには「オリンピックは何かが起きる。それもしっかり受け入れ、想定内の出来事として、精神的な余裕を持っていこう」という話を常にしています。過去の歴史を見てもそうじゃないですか。12年のロンドンのときもテロ問題が起き、08年の北京のときも、チベット問題や環境問題などがありましたしね。

林:いちばんひどかったのはミュンヘン・オリンピックのとき(1972年)で、選手村でテロ事件があったんですよね。

井上:選手たちには、「これからは一歩進んだら二歩後退するケースもあるだろう。そのたびに一喜一憂して、ネガティブになったりイライラしてもしょうがないから、そんなこともあるんだという前提のもとでやっていこう」ということも言ってるんです。

(構成/本誌・松岡かすみ 編集協力/一木俊雄)

井上康生/いのうえ・こうせい 1978年、宮崎県生まれ。東海大学体育学部武道学科卒業後、同大大学院体育学研究科修士課程修了。5歳のときから柔道を始め、全国少年大会を始め、全国中学、インターハイなど各年代の大会を軒並み制覇。2000年シドニー五輪100キロ級金メダル、04年アテネ五輪100キロ級代表。99、01、03年世界選手権100キロ級で優勝。01~03年全日本選手権優勝。12年、全日本柔道男子監督に就任。現在、東海大学体育学部武道学科教授。元代表監督の斉藤仁さんについて語った『柔の道 斉藤仁さんのこと』(講談社)が発売中

週刊朝日  2020年10月2日号より抜粋