木村:山崎先生は見直し論を指摘されましたが、私は日米安保条約を破棄して独立国の国防軍を保持する。そして、日米友好条約を結ぶべきだという立場です。そもそも安保条約の条文には、在日米軍基地は「極東における平和と安全」のために使用できると書かれています。しかし、米国から軍事的協力体制の強化が要請され、自衛隊の海外派遣が繰り返されている。日米安保は本来のあり方から変質しています。

山崎:極東の範囲をずいぶん議論したものです。96年の橋本政権の時に、冷戦後の安保体制の役割を再確認するための日米安保共同宣言を出しました。宣言の中で「アジア太平洋地域」という表現をしています。極東はフィリピン以北と解釈されていましたから、広げたわけです。安倍(晋三)総理になってから、さらに「インド太平洋構想」にまで広がりました。

 15年の日米防衛協力のためのガイドラインの改定では、米軍への後方支援を大幅に拡大し、米軍への弾薬提供や、離陸直前の戦闘機に給油ができるようになった。憲法が禁じているはずの自衛隊の海外派兵に道を開いてしまったのです。朝鮮半島危機など周辺事態を想定した97年のガイドライン改定に私は関与しましたが、当時は後方支援でなく、「後方地域支援」という言葉が発明された(笑)。日本周辺で戦場から遠く離れた地域に限定し、武器、弾薬は輸送しない。その制約が取り払われたのです。

メア:私は、日米安保体制はすごく進化したと思っています。特に、集団的自衛権が行使できるようになったことで、日米のネットワークの統合が可能になりました。日本が自国の防衛能力を向上させることは、日米同盟にとってもいいことです。陸上イージスを導入して、ミサイル防衛能力も整備した。F-35戦闘機も計147機調達します。北朝鮮のミサイルと核開発と、中国の海洋覇権という日米共通の脅威に対して、チームディフェンスができるようになりました。

山崎:中国は建国100周年の2049年までに、米国の軍事力に追いつき追い越せとの目標を掲げています。その意味では確かに「潜在的脅威」です。新型コロナウイルスの影響で、中国の習近平国家主席の来日が延期されましたが、やはり08年の日中共同声明に続く「第5の政治文書」に何が書かれるかが焦点です。これまで主権の尊重や領土相互不可侵などが盛り込まれました。ここは米国も入れて、日米中戦わずという明確なメッセージの入った政治文書にしなければならないと思っています。

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