女子57キロ級で優勝し、日の丸を手に喜ぶ川井梨紗子(撮影/粟野仁雄)
女子57キロ級で優勝し、日の丸を手に喜ぶ川井梨紗子(撮影/粟野仁雄)
姉妹そろって東京五輪の代表に内定し、金メダルを手にする姉の川井梨紗子(右)と銅メダルの妹・友香子(C)朝日新聞社
姉妹そろって東京五輪の代表に内定し、金メダルを手にする姉の川井梨紗子(右)と銅メダルの妹・友香子(C)朝日新聞社

「友香子、フェイント、フェイント、下から」「そこ我慢、我慢よ、頑張れーっ」

 スタンドの川井梨紗子(24)=ジャパンビバレッジ=と母の初江さんが声を振り絞る。カザフスタンはヌルスルタンでのレスリング世界選手権。9月20日、女子62キロ級の川井友香子(22)=至学館大=が3位決定戦で勝利した瞬間、姉の梨紗子は初江さんとうれし泣き。会見場に現れた姉妹は「ありがとう、友香子」「ありがとう」と涙顔で抱擁した。

 今大会、前日に女子57キロ級で3連覇を果たした川井梨紗子は、自らの決勝直前に妹友香子が3回戦の接戦でフォール負けすると、床に突っ伏して泣いていた。3位以内で東京五輪内定が規定だ。敗者復活戦から3位を決めた友香子とともに姉妹そろっての内定で、57キロ級から62キロ級への変更もうわさされた二人の大先輩、伊調馨(35)=ALSOK=が5連覇を目指した東京五輪は事実上消えた。

 この大会、伊調馨や吉田沙保里に代わる「川井梨紗子時代」の到来、を感じた。

 国内では復帰した伊調とのプレーオフを勝ち抜き、カザフに乗り込んだ。1回戦は30秒余で圧勝。危なげなく勝ち上がり決勝進出を決めた時点で自らの階級での五輪代表争いに決着をつけた。しかし「馨さんに勝って世界で負けていては何にもならない」と自らを叱咤(しった)していた。レジェンドに逆転負けした昨年の全日本選手権で返し技を怖がり攻めなかったことを強く後悔。「絶対に後悔しない」とのモットー通り、どの試合もガンガン攻め立てた。決勝では昨年の覇者の栄寧寧(ロン・ニンニン)=中国=を一方的に転がしてバックを取り一時は9―0にまで差を広げた。終盤3点差に詰められたが危なげなかった。

 前日に決勝進出を決めて五輪内定を決めた時に抑えていた涙があふれた。会見で「友香子が負けたのは見られなかった。私の優勝が励みになれば」と話し、「馨さんとの戦いでレスリングというより精神的に強くなれた。まだエースではないんですけど、沙保里さんみたいにみんなを引っ張れるようになりたい」とはにかんだ。リオデジャネイロ五輪で優勝した時よりずっと成長した姿があった。

 日本勢は男子グレコローマンで67キロ級の大田忍(25)=ミキハウス=、60キロ級の文田健一郎(23)=ALSOK=が優勝する滑り出しだったが、リオ五輪の覇者で女子68キロ級の土性沙羅(24)=東新住建=、昨年優勝した男子フリー65キロ級の乙黒拓斗(20)=山梨学院大=がメダルを逸するなど厳しかった。

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明るく日本レスリング界を引っ張る存在