この会は楽屋に出るケータリングのカレーが美味いのだ。新潟名物『万代シテイバスセンターのカレー』が寸胴鍋で出演者に提供される。具がゴロッとした、ピリ辛の、真っ黄色のドロドロしたカレー。確実に3杯はお代わりする。楽屋がカレー臭い。ゲップが止まらない。正直、落語とかどうでもよくなってくるが、カレーを食えば元気になる。全身全霊で落語やる。ぐったりするが楽屋に戻りまたカレー。美味い。元気が出る。また別会場で落語。身体がカレー臭い。でもまた食べる。もうバスセンターのカレーがないと生きていけない身体になっている。完全にドラッグである。いや、カレーだけど。

 要するに『フェス』とは……控室で「ドラッグ的なもの」を摂取してギリギリのパフォーマンスする人を、首からなんかぶら下げた人たちが観るラジオ体操くらい魅力的なイベント……に違いない。だから皆さん、フェスに行ったら必ずハンコ押してもらってください! きっとノートとお菓子がもらえるはず。「なんだ、チミは?」って言われるかもしれないけどね。

週刊朝日  2019年8月16日‐23日合併号

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春風亭一之輔

春風亭一之輔

春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/落語家。1978年、千葉県生まれ。得意ネタは初天神、粗忽の釘、笠碁、欠伸指南など。趣味は程をわきまえた飲酒、映画・芝居鑑賞、徒歩による散策、喫茶店めぐり、洗濯。この連載をまとめたエッセー集『いちのすけのまくら』『まくらが来りて笛を吹く』『まくらの森の満開の下』(朝日新聞出版)が絶賛発売中。ぜひ!

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