春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/1978年、千葉県生まれ。落語家。2001年、日本大学芸術学部卒業後、春風亭一朝に入門。新刊書籍『春風亭一之輔のおもしろ落語入門 おかわり!』(小学館)が出ました!
春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/1978年、千葉県生まれ。落語家。2001年、日本大学芸術学部卒業後、春風亭一朝に入門。新刊書籍『春風亭一之輔のおもしろ落語入門 おかわり!』(小学館)が出ました!
イラスト/もりいくすお
イラスト/もりいくすお

 落語家・春風亭一之輔氏が週刊朝日で連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今週のお題は「フェス」。

【画像】一之輔氏が『フェス』に…?

*  *  *

『フェス』なんかどうせわからないと思ってるんだろう? 俺だってわかるよ、それくらい。フェスティバルの略だろ? まあだいたい、フェスに参加する人は首からなんかぶら下げているわな。紐のついたカード。このカードは何のためにぶら下げるかといえば……まあハンコを押してもらうためであろうことは想像に難くない。全てのマスにハンコを集めた人は、きっと……もらえる。夏のもらえる物……となると……ノートかお菓子と相場が決まっているさ。あ……ラジオ体操じゃね? そう『フェス』はラジオ体操のようなモノ。いや、ラジオ体操が『フェス』なのだ。

 そういえば私は「昨今のラジオ体操事情」に言いたいことがある。最近は夏休みの間、ラジオ体操を毎日行わない地域が多いようだ。うちの近所は7月の最終週だけ。しかもわが町内のラジオ体操は毎日ヤクルトが1本もらえる。ヤクルトをもらいに行ってるようなもんだ。私が子供のころはほぼ40日間、毎朝ラジオ体操があり、何がなんでも全てのマスにハンコを押してもらっていた。家族旅行中でも「この辺りでラジオ体操やってる会場はないですか?」と民宿のおじさんに聞いて、縁もゆかりもない小学校にもぐり込んで一人で体操。よそ者がハンコの列に並ぶのはかなり勇気が要る。「見慣れないな。なんだ、チミは?」。ハンコを押す係の人に“変なおじさん”を問い質すがごとく不審がられたので「旅行で来たんです」と言うと、おじさんは「えらいねえ、チミは~」とハンコを押してくれた。そのおかげで皆勤賞のノートとお菓子がもらえたのだ。昔のラジオ体操にはそれくらいの魔力があった。地域の方々の協力あってこそのラジオ体操、皆さんのご苦労はわかっているが、現状はちょっとさびしい……。

 なんの話? そうそう『フェス』だ。担当K氏に「フェス的な落語会はないですか?」と聞かれたが、毎年出演している新潟の『虹色寄席』という会がどうやらフェスっぽい。「落語フェス!!」とチラシに書いてあったし。そういえばお客さんはみな首からなんかぶら下げていたな。

著者プロフィールを見る
春風亭一之輔

春風亭一之輔

春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/落語家。1978年、千葉県生まれ。得意ネタは初天神、粗忽の釘、笠碁、欠伸指南など。趣味は程をわきまえた飲酒、映画・芝居鑑賞、徒歩による散策、喫茶店めぐり、洗濯。この連載をまとめたエッセー集『いちのすけのまくら』『まくらが来りて笛を吹く』『まくらの森の満開の下』(朝日新聞出版)が絶賛発売中。ぜひ!

春風亭一之輔の記事一覧はこちら
次のページ