ラグビークイーンズランド州代表・平田彩寧/1995年、静岡県生まれ。2014年に渡豪。クラブチーム・サニーバンクドラゴンズ所属、クイーンズランド州代表選手。ポジションは9番スクラムハーフ (写真/Miho Watanabe)
ラグビークイーンズランド州代表・平田彩寧/1995年、静岡県生まれ。2014年に渡豪。クラブチーム・サニーバンクドラゴンズ所属、クイーンズランド州代表選手。ポジションは9番スクラムハーフ (写真/Miho Watanabe)

 いよいよ、日本初、アジア初となるラグビーワールドカップ(W杯)2019日本大会の開幕が迫ってきた。

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 9月20日から11月2日にかけて全国12カ所で開催され、世界各国からファンが詰めかけるが、イングランドに次いでチケットの購入枚数が多いのがオーストラリア。その数は6万枚を超えるとも言われている。

 ファンならずとも心躍る「4年に一度じゃない。一生に一度」のW杯という体験を、より楽しむためのヒントを、日常にラグビーが根付いているという国オーストラリアで選手やファンに教わった。

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「オークションが始まるぞ! 見に行こう!」

 オーストラリアのクラブラグビー選手権、シュートシールド。シドニー・ハーバー北部にあるマンリーのスタジアムで、試合後、地元チーム「マーリンズ」のファンにそう声をかけられた。いったい何の競売だろうと首をかしげながらピッチに下りると、まだ汗が光る選手たちに話しかけたりツーショットでの写真撮影を頼んだりする女性たちの姿が。どうやら、人気選手にファンが群がる状況を「オークション」と表現したものらしい。

 イギリスでも、プレミアリーグの試合終了後、選手に気軽に声をかけるファンたちに驚かされたが、ここオーストラリアではさらに“自由”だった。そもそも、試合中にもかかわらず、ピッチ脇の白線で隔てられただけの芝生エリアで子どもたちが自由に遊んでいることに目を見張った。トライやゴールが決まるたび、ちびっこチアガールがピッチに飛び出していって喜びのダンスを披露し、大人たちは観戦よりもビールを飲むことやおしゃべりに熱心にさえ見える。

「ここに来れば誰かしら友達に会えるからね」とは近隣在住のファン、エイドリアン・モロイさん。地元企業がスポンサーとなることで運営されているクラブチームのラグビー場は、住民が一体となれる交流の場にもなっているのだ。

 同じシュートシールドでプレーするオーストラリアのラグビークラブチーム「サニーバンクドラゴンズ」に所属し、クイーンズランド州代表選手としても活躍する日本人女子選手がいる。平田彩寧(ひらた・あやね)さん。

 小学3年生のとき、ヤマハ発動機のラグビースクールで男子に交じってラグビーを始め、島根県の石見智翠館高校の女子ラグビー部の第1期生に。卒業後、一度は日本の実業団チームに所属したものの、海外でプレーする道を選んだ。平田さんによれば、ラグビーはオーストラリアの日常生活に根付いていると言う。

「小さい頃から家族みんなで週末に楽しんできたからかなと思います。女子チームもたくさんあるし、ママになってもチームに戻ってくる女性選手も多い。お子さんが4人いるオーストラリア女子代表もいるんですよ。それだけラグビーが続けやすい環境にあるし、競技そのものが身近な存在なんです」

 競技や選手との距離が、物理的にも精神的にも近いからこそ生まれたのが、この自由な空気なのかもしれない。

 もちろん、W杯という大きな舞台では、ここまで自由に楽しむことは難しいだろう。だが、日本大会を見に訪れるという6万人を超えるオーストラリア人ファンたちと交流するだけでも、その楽しい空気を味わえるに違いない。

 スタジアム横のパブで仲良くラグビー談義に花を咲かせていた男性2人組は、ひとりは地元シドニーの出身、もうひとりは英国ウェールズの出身で、じつはいまここで知り合ったばかりなんだよと笑った。

「全世界のチームとファンが、試合後はみんな友達になる。それがラグビーの素晴らしいところさ!」

(取材・文/伏見美雪)

週刊朝日  2019年7月19日号