来日したジョゼッペ・グリッロ氏=撮影・山田厚史
来日したジョゼッペ・グリッロ氏=撮影・山田厚史
イタリアで選挙演説をするジョゼッペ・グリッロ氏(左)=2018年 (c)朝日新聞社
イタリアで選挙演説をするジョゼッペ・グリッロ氏(左)=2018年 (c)朝日新聞社

 イタリアの政治を変えた「五つ星運動」をご存じだろうか。政党とは言わず「運動」と称して改革を訴え、国会議員を大量に当選させた。昨年には第一党となり、連立政権を樹立した。

 この政党を2009年に創設した一人が、毒舌のお笑い芸人ジョゼッペ・グリッロ(70)。ベッペの愛称で呼ばれるこの芸人は、既成政党への批判を繰り返し、政治運動に火をつけた。

 今回、ベッペは市民団体「デモクラシー未来財団」の招きで来日。都内で4月15日に講演し、こう訴えた。

「デジタル社会は人々が連帯できる道具を用意した。プロの政治家でなく、普通の市民が声を上げることで革命は可能となった」

 日本の政治改革が進まないことについては、「日本人は勤勉だが働きすぎでもの考えるゆとりまで失っているのではないか」、とユーモア交じりに一刺し。

「ストレスを打ち払うには笑うこと。笑いは力になる。どうしたら人は幸せになれるか。そこを起点に考えることが市民革命の出発点だ」

 革命の突破口となる政策として、基礎的な所得を誰もが得られる「ベーシックインカム」を挙げた。

 イタリアでは誰もが知り世界的にも影響力があるベッペだが、五つ星運動を躍進させるまでの道のりは波瀾万丈(はらんばんじょう)だった。

 もともとは、社会風刺をネタに一人語りするのが得意で、レギュラー番組を持つ人気コメディアンだった。辛辣(しんらつ)な政権批判が放送局の上層部から危険視され、1990年代にTV・ラジオから追放された。そこで活躍の場を劇場に移す。

「干されたことが逆に私の価値を高めた。劇場でしか聞けない話に人々は足を運んでくれた。聴衆の反応を受け止めながら演ずると、皆が何に怒っているのか手に取るように分かった。怒りは笑いに昇華されると、すさまじいパワーが生まれると気付いた」

 ベッペの話芸には、失業、汚職、環境、都市問題といった身の回りの問題がちりばめられている。ゲラゲラ笑いながら、聴衆は深刻な問題に目を向ける。あちこちから声が掛かり、集会がイタリア各地で開かれるようになった。

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芸人から運動家に転身した理由は?