「運び屋」が死亡した東京都台東区駒形のビジネスホテル(撮影・羽富宏文)
「運び屋」が死亡した東京都台東区駒形のビジネスホテル(撮影・羽富宏文)

 現実の「運び屋」は、名優クリント・イーストウッド演じる、映画「運び屋」とは全く異なるのかもしれない。

 4月30日の午後。東京都台東区駒形のビジネスホテルの前は警察車両で埋め尽くされた。
 
 ホテルの従業員が昼ごろ、部屋で死亡している男性を発見し119番通報した。亡くなっていたのは台湾籍の62歳の男性。遺体の状況から、警視庁は事件性の疑いがあるとして、男性を司法解剖した。男性の体内からは何と、袋に小分けされた覚せい剤とみられる違法薬物、約50袋が見つかったという。

 男性の死因は、体内の一部の袋が破れて薬物中毒死したことによるとみられている。捜査関係者によると、男性は違法薬物の密輸に関わっていた可能性があり、一緒に宿泊していた台湾籍の男2人の行方がわからなくなっている。

 死亡した男性はいわゆる「クスリの運び屋」だった可能性が高い。違法薬物の密輸の実態に詳しいジャーナリストの溝口(みぞぐち)敦(あつし)さんが説明する。

「運び屋を使って違法薬物を海外から密輸するのは、日本の暴力団の常套手段。日本人も運び屋として使われることもあるし、今回は流通ルートの関係から台湾籍の男性が選ばれただけだろう。薬物を小さな袋に詰めて封をしてのみ込んで密輸する方法はよく使われる手口だ」

 実際に体内に入れて運んだ薬物はどうやって取り出すのだろうか。

「下剤を飲み、便と一緒に袋を排出して取り出すのが一般的。のみ込むときに用いる入れ物は、コンドームが多い。パケと呼ばれるビニール製の小袋は、のみ込めても胃酸などが作用して体内で袋が破れやすく、中毒死する可能性が高い」

 命の危険と隣り合わせの運び屋だが、実はニーズが高いと溝口さんは言う。

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映画と違い過ぎる運び屋の現実