減点のリスク回避で、難しいジャンプが減るかと思えば、そうでもないという。世界選手権のようなトップクラスの選手が争う大会では「リスクがあっても難しい技を入れていかないといけない」と、本田さん。例えば、ネーサン・チェンは1月の全米選手権のフリーで、3種類4本の4回転ジャンプを成功させた。

「難易度の高いジャンプを入れないと点数の限界が見えてきてしまいます。トップに立つためには、よりレベルの高いジャンプで、いい演技をすることが大事です」(本田さん)

 宇野昌磨も2月の四大陸選手権のフリーで、4回転ジャンプをきれいに3本決めて、ルール改正後の世界最高得点をたたき出した。つまり、ただ跳ぶだけではダメ、キレイに跳ぶことが求められているのだ。

 改正点で、注目すべきはジャンプだけではない。コレオシークエンス(ステップ、スピン、スパイラルなどを織り交ぜた一連の動き)の基礎点が2・0から3・0に上がった。

「スピンとステップ、そしてプログラムの完成度が高い選手が総合的に高い点数を記録することになります」(同)

 この新ルールを追い風とすることができる選手は誰なのか。本田さんは言う。

「どの選手が有利とは一概には言いにくいのですが、羽生結弦選手のジャンプの質、スピンの速さ、プログラムの中でのアピールや演技力などが高い評価を得て高得点につながるのではないか。ライバルのネーサン・チェン選手は、演技構成点よりも技術点での加点を狙ってくる気がします」

 解説者の佐野稔さんは、こう語った。

「基本的に基礎点が低くなり、GOEで点数を稼ぐかたちになりました。羽生君はけがをしたときに跳んだ4回転ループを、試合で跳ぶのかどうかが一つの注目点。けがからの回復次第ですが、もし抜くとなると、彼が跳べる4回転ジャンプの種類が少なくなり、厳しくなる。とはいえ、もともと質の高いジャンプを跳び、GOEで高い得点を稼ぐことができる選手。新ルールを味方につけることは十分できるのではないでしょうか」

 羽生自身は、19日朝放送の情報番組「とくダネ」(フジテレビ系)のインタビューで、4回転ジャンプの仕上がりについて「ループまでしっかり戻ってます」と語っていた。そのとおり、公式練習では4回転ループも着氷していた。

 絶対王者は新ルールを追い風にできるのか。注目の男子シングルはショートプログラムが21日。もうすぐ「羽生劇場」の幕開けだ。
(本誌取材班)

※週刊朝日2019年3月29日号に加筆