認知症治療に取り組む水戸市の「お多福もの忘れクリニック」。管理医師の本間昭氏は患者に対し、健康面だけでなく、お金のことについても配偶者や子を交えてよく話し合うことを勧めている。家族関係が良い人は問題ないが、仲が悪いと大変そうだという。

 認知症の有病率は、70~74歳は5%未満だが、75~79歳は10%台前半と急増する。75歳を過ぎたら要注意で、80代となればかなり警戒が必要になる。

 老人ホーム案内のサイト「シニアのあんしん相談室」(ウェブクルー社運営)の荒井奈津子さんは「ホームの入居者は85歳前後が多く、およそ半分で認知症の症状が出ている」と話す。親が認知症になっても、気づかない家族も多いという。

 認知症についてはまだわからないことも多い。日本社会福祉士会の星野美子理事はこう指摘する。

「認知症患者には、日によって言うことが違う人もいます。その人が一度示した意思が、ずっと同じとは限らない。生活環境が良くなり、コミュニケーション能力が改善することもある」

 認知能力の落ち方も人それぞれで、症状に応じた柔軟な対応が必要になる。

 全国介護者支援協議会の上原隆夫研究員はエンディングノートなどを活用し、元気なうちから自分の意思を何らかの形で示す必要性を強調する。「自分の身や財産を守るだけでなく、その後の家族を守ることにつながる。家族間の不要な争いや負担を防げます」

 認知症患者が持つ金融資産は17年度末に143兆円に及び、30年度には215兆円になるとみられる(第一生命経済研究所の試算)。金融庁が7月まとめた「高齢社会における金融サービスのあり方」によると、35年には認知症患者が有価証券全体の15%を持つ可能性があるという。

 超高齢化社会を迎え、認知症マネーへの対応はますます大きな課題だ。認知症予防のために脳トレに励む人は多いが、自分や家族が認知症になった際の資産管理までは考えにくいのが実情だろう。将来のお金についての「頭の体操」も、より必要な時代になっている。(本誌・浅井秀樹)

週刊朝日  2018年10月5日号