これをもとにQアノンたちは分析、解読を進めているのだが、トランプ大統領の自己矛盾した言動やツイートの誤字や脱字にすら「計算された意図」があり、陰謀論を裏付けているのだという。もはやこじつけにすぎないのだが、そうした「証拠」がソーシャルメディアやユーチューブを通じて拡散している。Qアノンにとって、Qの言葉は「疑いようのない真実」であり、彼らの謎解きゲームは真偽を確認するためではなく、Qの言葉に合わせてあらゆる事象を解釈するために行われているのだ。

 Qアノンが影響力を増すにつれて既存メディアもその存在を無視できなくなってきた。ワシントン・ポスト紙は「陰謀カルト」と批判的に報じたが、当のQアノンたちに響く気配はない。トランプ支持者の彼らは、「フェイクニュースであり陰の政府の手先でしかないメディア」をそもそも信頼していないからだ。

 問題はトランプ大統領が最近、Qアノンの存在を認識し、自らを無条件に支持してくれる彼らにおもねるような発言や行動をし始めているところにある。ネット発の陰謀論が、もはや国際情勢を動かしかねない影響力を持ち始めているのだ。中間選挙を前に、彼らがどのような論陣をネット上で展開するのか、注目する必要がある。

週刊朝日  2018年9月14日号

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津田大介

津田大介

津田大介(つだ・だいすけ)/1973年生まれ。ジャーナリスト/メディア・アクティビスト。ウェブ上の政治メディア「ポリタス」編集長。ウェブを使った新しいジャーナリズムの実践者として知られる。主な著書に『情報戦争を生き抜く』(朝日新書)

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