春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/1978年、千葉県生まれ。落語家。2001年、日本大学芸術学部卒業後、春風亭一朝に入門。JFN系FM全国ネット「サンデーフリッカーズ」毎週日曜朝6時~生放送。メインパーソナリティーで出演中です
年末年始、新と旧が行き交っています(※写真はイメージ)
落語家・春風亭一之輔氏が週刊朝日で連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今週のお題は、「新旧交代」。
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年末年始、新と旧が行き交っています。大河ドラマは新年から『西郷どん』。楽しみだなぁ。べつにヨイショじゃないです。朝ドラは年度末まで『わろてんか』。私は脱落してしまいました。毎日観てたんですが、今はBGM代わり。本来の朝ドラの在りかたを思い出した次第です。これでいいのだ『わろてんか』。
2008年11月。仕事で対馬へ行きました。『わろてんか』を聴きつつ、放置しっぱなしの自分のブログを見て思い出した話。ひなびた旅館に1泊。夜、フロントの自販機でビールを買おうとすると、手書きのメモが貼ってありました。
「新千円札は使えません」
???……新千円札? 変わったのいつだ?……夏目漱石から野口英世に変わったのが2004年だから4年前。4年間も新札を拒否し続けるという無精さ……否、無欲さ。果ては常軌を逸した漱石フリークか? 同行の先輩いわく「対馬だし……ふつうだろ?」。いや、怒られっぞ! 他の店では使えたよ。
フロントに千円をくずしてもらおうと声をかけると、「よければ旧札に替えますか?」との返答。「え? あるんですか?」「ありますよ」「じゃあ、お願いします」。無事にビールをゲット。気になるので、フロントのお兄さんに聞いてみた。
私「なんで自販機、新札対応にしないんですか?(もう世間的にはとっくに新札じゃないけど)」
フロント「んー……旦那さんの考えなんでよく分からないんですけど、そんな話が持ち上がったことすらないすねー」
フ「滅多にいません」
私「千円を細かくしてくれってくるでしょ?」
フ「それは来ます」
私「旧札に替えることはよく……」
フ「わざわざ替えてくれってくる人はいないすよ」
私「え?……じゃあ、今なんで私は夏目漱石に替えてもらったんでしょう?」
フ「今日銀行行けなかったんで、明日の分の小銭をとっておこうと思いまして。夏目漱石、1枚はあるんで。だから聞いてみました。まずかったっすか?」
私「いや、私はかまわないですけど……夏目漱石、1枚たまたまあったんですか?」
フ「たまたまじゃないっす。こういう時のために1枚はフロントに置いてあります」
私「1枚だけわざと?」
フ「はい。お金回収したら、旧札1枚は確保して置いとけば、今みたいな時に使えますんで」
私「……じゃその1枚がなくなったら、自販機は新札対応にするんですかね?」
フ「それは旦那さん次第っすね」
年に一度、使われるかどうかの自分がそこにいるがために新旧交代が進まない状況……自販機に吸い込まれていった夏目漱石はどう思っているのだろう。
「吾が輩もそろそろ身を引くべきでは……」? それとも「まだ若い者には譲らん!」? そもそも夏目漱石の一人称って『吾が輩』か?
この自販機がこの世の縮図……と言ったら過言ですか? 昔のブログを見返して、たまたま思い出したツマラナイことが無理やり大きな話になりかけました。2018年も吾が輩はこんなかんじで参ります。どうかひとつ『わろてんか』?
※週刊朝日 2018年1月5-12日合併号