林:そして今度は、「スペシャルトークショー~夢のあとさき~」を日本各地でなさるんですね。

岸:「わりなき恋」の舞台を続けたかったんですが、衣装替えが6回で水を飲むヒマもないし、高いヒールで歩き回るから、やっぱりトシなんだろうなあ、すごく疲れるんです。それで今年はこういう形にしたら、と事務所のオーナーが提案してくれました。真理子さんには「わりなき恋」を見ていただきたかったけれど、お気が向いたら、新しい試みの「夢のあとさき」ぜひいらしてください。

林:必ずうかがいます。講演会みたいな形ですか。

岸:映像も入ります。でもね、私、こういう形だととっても悩むんです。私の人生、いろんなことがありすぎて、映像込みで1時間半だと、話すことを選ぶのが大変なんです。

林:そうですよね。

岸:おもしろいと思ってもらえる話でないといけないし……。日本は今のところテロもないし、平和な日常が暮らせるからかしら。世界での悲惨な事件とか、知らなくていいものは知りたくないみたいな風潮があると思うのね。私が命がけで行ったイランやイスラエルのことを話しても、高齢者は眠くなっちゃうらしい。

林:皆さんがいちばんお聞きになりたいのは、デビューしてすぐの華やかな映画スターのころと、パリでの生活ですよね。私、岸さんのエッセーはほとんど読んでいますけど、岸さんが夜汽車の中で寝ちゃって、目が覚めると、「お嬢さん、寝ているときもエクボがありますね」と前に座っていた男性からのメモがあったという話が印象に残っています。

岸:そうそう。高校生でした。

林:天使のような寝顔だったんでしょう。すごく好きなエッセーです。

岸:クラスメートと二人で汽車に乗ったら、急に温かい牛乳が飲みたくなって。そうしたら前の席の男の方が止まった駅で買ってきてくださったと思うの。記憶があいまいですが、丸顔で日焼けした笑顔がステキな方でした。いつの間にか眠ってしまって、目覚めたらその方はどこかで降りてしまって、牛乳瓶の首に粗くよったこよりメモが結んであった。今でも思い出します。

週刊朝日 2017年8月18-25日号より抜粋