「暴行、傷害の罪を犯す危険性があります」(同)

 痴漢の発生はたいてい、通勤ラッシュや帰宅時など電車や駅が混雑している時間帯だ。疑われている時点で周囲の目は厳しく、逃げる〝痴漢〟を多くの人が取り押さえようとする。そこを潜り抜けようとすれば、突き飛ばしたり押したりして、結果的にケガを負わせる可能性があるのだ。

 線路を走っての逃走は論外だという。
「鉄道営業法には『みだりに鉄道地内に立ち入ってはならない』と規定されています。線路に降りた時点で犯罪です」(同)

 モノリス法律事務所の河瀬季弁護士も、同様に「逃げることに合理性がない」と語る。

「今は随所に防犯カメラがあり、性能も上がっているので、逃げてもすぐ捕まります。3週間の勾留だと勤め先などに言い訳できないですが、3日間の身柄拘束なら、『病気した』などの言い訳ができますよね」

 勾留を避けるために逃亡すべきではないという理屈はわかったが、冤罪なのだから逮捕自体を避けたいところ。「ベストなのは駅員室に行くまでの間に弁護士を呼ぶこと」らしいが、弁護士のつてがない人はどうすればいいのか。

「痴漢と指摘されたときは動揺していますから、その場で『痴漢 弁護士』とスマホなどで検索するのは現実的ではない。最寄りの弁護士事務所など、すぐに駆けつけてくれる弁護士の連絡先をあらかじめ控えておくのがいいでしょう」(江口弁護士)

 弁護士事務所が近くにない場合は、すぐに弁護士へSOSが送れる「痴漢冤罪ヘルプコール」という保険サービスもある。他にも痴漢を疑われたときにとるべき行動を教えてくれるスマホアプリも。前出の河瀬弁護士が監修し、3月に発売された「痴漢冤罪防止ナビ」は順序立てた指示に加え、録画・録音が可能だ。指示は「微物検査希望の申し出」など詳しい説明つきだ。

 アプリを開発したグループの代表・奈良英幸さんによると、痴漢事件に遭遇したのが開発のきっかけだという。

「女性は涙していて、指摘された男性はぼうぜんとしてました。それが冤罪かどうかはわかりませんし、女性にも同情しました。と同時に、もし疑われたのが自分だったらと思うと恐怖でした」

 アプリのダウンロード数は最近の報道もあって、急激に伸びているといい、いつわが身に降りかかるかわからない恐怖に対して、関心は高いようだ。(本誌・秦正理)

※ 週刊朝日オンライン限定記事

著者プロフィールを見る
秦正理

秦正理

ニュース週刊誌「AERA」記者。増刊「甲子園」の編集を週刊朝日時代から長年担当中。高校野球、バスケットボール、五輪など、スポーツを中心に増刊の編集にも携わっています。

秦正理の記事一覧はこちら