西武ライオンズの元エースで監督経験もある東尾修氏は、日本ハム大谷翔平選手が悪循環に陥っているという。

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 日本ハムの大谷翔平が開幕から3試合に先発して勝ち星を挙げられなかった。現時点では4戦目の勝敗はわからないけれど、3試合で0勝2敗だ。

 しかし、防御率は1.71。決して状態が悪いわけではない。投球だけのことを考えれば、そんなに心配はしていないよ。

 投手・打者の二刀流。そうした特殊な立ち位置、試合出場数などから見ても、質、量とも向上している。栗山英樹監督が、先発登板の試合でDHでなく先発打順に入れることも検討しているとの報道もあった。今季は登板2日前に野手として出場するなど、打撃面でもスケールアップしている。ただ、質が上がれば上がるほど、そして彼の存在感がチーム内で増せば増すほど、投打の両方のパフォーマンスを求めるリスクを考えてほしいと思うよね。

 投手出身の私と野手出身の栗山監督では、考え方が異なる部分もある。もちろん、大谷のように過去に例のないスケールを持った選手には、既成の概念を当てはめてはいけない。それでも……と思う。

 4月6日の西武戦(西武プリンス)では野手で出場し、六回に右中間を抜ける打球で果敢に三塁を狙ったがアウト。二塁を回った直後に左足を滑らせ、右足を強く踏ん張った際に瞬間的に痛みが出たという。4月1日のソフトバンク戦(草薙)では投手で出場。右手人さし指と中指にマメができ、次の登板が10日にずれ込んだ。

 
 二刀流を否定はしない。ただ、強弱をつけなければ、双方のパフォーマンスに影響を与えてしまう。私は、まず「投手」に軸足をしっかり乗せるべきだと考える。そのうえで、「野手」として出場する試合を吟味していくべきだ。

 一流になれば、それだけパフォーマンスの維持や、さらなる向上へ向けてのルーティンの数も増える。両方を追いかければ、練習や試合で何倍もの負荷がかかる。ハードな練習を重ねれば、十分な休養も必要になって時間を奪われる。投手として休むべきときに野手として試合に出ていたら、回復にも影響する。

 メジャーを目指すような意識の高い投手は、中6日の期間を体のパワーアップに充てている。ただの調整ではない。自らの弱い部分を強化し、さらに特長を伸ばす努力をしている。大谷はそのどこかを削って、野手としての質を高める作業に充てている。もし、投打ともに突き詰めてトレーニングをするのなら、休養はどこにあるのか。本人もその難しさに気づき、強弱の重要性を感じているのではないかと思う。

 野手だって、年間を通じて全力プレーをすれば、故障を抱えるものだ。足を痛めれば、走塁面で多少の強弱をつけながら、だましだまし戦う。投手だと、小さなバランスの変化であっても、大きな乱れを呼ぶことがある。無論、大きな故障をすれば元も子もない。

 大谷は昨年、最多勝を獲得した。二刀流で話題をさらうような段階は過ぎ去り、結果に対し、責任を背負うレベルに達した。ここからの進化、技術向上がいかに難しく、精緻な作業であるかを大谷本人も身をもってわかりはじめているだろう。栗山監督ら首脳陣とじっくり話し合い、将来を見据えて軸足を定めるシーズンにしてほしいと思う。

週刊朝日 2016年4月29日号

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東尾修

東尾修

東尾修(ひがしお・おさむ)/1950年生まれ。69年に西鉄ライオンズに入団し、西武時代までライオンズのエースとして活躍。通算251勝247敗23セーブ。与死球165は歴代最多。西武監督時代(95~2001年)に2度リーグ優勝。

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