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生きるための選択
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 13歳で母とともに脱北したパク・ヨンミさん(22)の手記『生きるための選択』(辰巳出版)が11月に刊行された。脱北した後も中国で人身売買された彼女は、「自由」の意味すら知らなかった。韓国に逃れた彼女は今、何を思うのか。

──韓国に渡って、どう変わりましたか。

 それまで、自由というのは逮捕される心配なく好きな映画を見たり、好きな服を着られることだというイメージしかありませんでした。「私」が何をしたいかなんて考えたこともなかった。自由になって初めて、自由というのは自分で考えて選択しなければならないことだと知ったのです。

 私は、法律を勉強して警察官か検察官になろうと思いました。北朝鮮では、警察官にはお金をとられたり、暴力をふるわれたりするだけ。中国では制服を見るたびに、その場で逮捕されるのではという恐怖におびえていました。警察官に守ってもらったことなんて、人生で一度もなかったのです。でも韓国では、市民を守るのが警察官の仕事でした。

 大学では警察行政について必死に勉強しました。勉強が楽しくて仕方なかった。学ぶうちに視野が広がり、もっと他の分野も学びたいと思うようになりました。そんな中、ソウルのインターナショナルスクールで北朝鮮についてスピーチしてほしいと頼まれたことを機にインタビューや講演依頼が舞い込むようになったのです。これが転機となりました。母も「北朝鮮という国全体が巨大な強制収容所だと世界に教えてやりなさい」と言ってくれました。それから間もなく、手記を書き始めたのです。

──今、どんな暮らしをしていますか。

 8月からニューヨークに住んでいます。9月末にイギリスとアメリカで本が出版されてからは、世界をまわっています。実は今日(本誌インタビューのあった11月24日)は特別な日で……。受験していたコロンビア大学から、入学の許可を知らせるメールが届いたのです! 来年1月からコロンビア大学の学生になります。

 私は北朝鮮政府からマークされています。韓国では担当刑事がついていました。金一族が誰かを殺そうと思えば殺せることも知っている。でも、もし今私が殺されたとしても、本を通じて世界中に私のことを知ってくれる人がいる。今は、余分にもらった人生を生きている感覚です。恐れていては何もできません。自由を手に入れるためのリスクを受け入れる覚悟はあります。だから前を向いて、一歩を踏み出そうと思います。

週刊朝日  2015年12月18日号より抜粋