介護の現場は、男性よりも女性のほうが圧倒的に多い。介護労働安定センターによる14年度介護労働実態調査によれば、全体の約80%が女性だ。

 記者が勤めた施設は、女性9、男性1の割合だった。職員たちは転職を繰り返しており、やはり漢字を知らず、新聞など読まないタイプがほとんどであった。正社員もパートも、8割以上が3カ月以内に辞めていった。そして、女性間のパワーハラスメントが日常的に起きていた。頻繁に目にしたのは、働きだして日の浅いヘルパーに、先輩社員が基本的なことを何も教えず、困っている姿を見て喜んでいる光景だった。

 あるとき、利用者が発作を起こした。ヘルパーたちにとっては未経験であったため、かなりうろたえた。それを目にした責任者は「ダイアップ取って!」と怒鳴った。「ダイアップ」とは医療用医薬品名で、座薬のことだ。2人の女性ヘルパーが何のことかわからずオタオタしていると、責任者は「もういい!」と激怒して自分で取りに行った。ヘルパーたちは、「座薬」と言われれば間違いなく対処できた。同責任者は必要最低限の情報を伝えることなく、あるいは他者が理解できるように説明することもなく、いつも部下が働きにくい状況をつくり出していた。

 別の日には、利用者Tが、利用者Uを引っかく事故が生じた。T、Uともに知的障害者だったため、善悪の判断はつかない。あっという間の出来事で、防ぎようがなかった。同現場には私も含め、4人のヘルパーがいた。

 責任者は4人の中で入社したばかりの新人女性をターゲットとし、「なぜ防げなかったのか?」「あんたの責任だ! どうしてくれるのか」と詰問した。記者に火の粉が飛んでくることはなかったが、こうしたことが連日続いていた。ヘルパー2級の資格を取り、この7年間で四つの介護施設を渡り歩いてきた五十嵐こずえさん(仮名・48歳)は業界で働く人についてこう評した。

「大きな声では言えませんが、他の職では採用してもらえないとか、教養のない人が多いと感じます。誰でも入れ、気に入らなければすぐによそに移れる特異な職種だと思います」

(本誌・林 壮一)

週刊朝日  2015年11月6日号より抜粋