安倍首相、塩崎恭久厚労相は介護現場の実情をどこまで知っているのか (c)朝日新聞社
安倍首相、塩崎恭久厚労相は介護現場の実情をどこまで知っているのか (c)朝日新聞社

 介護の現場では年間約28万人が離職するといわれている。

 安倍政権が“新3本の矢”の一つとして打ち出した「介護離職を2020年代初頭までにゼロにする」というスローガンは、当然のごとく介護現場で失笑を買った。慢性かつ、深刻な人手不足に苦しむ介護業界の離職率は昨年度、16.5%と高く、年間28万人以上が離職し、人材難に悩まされ続ける。

 親の介護のため離職する人をゼロにするには、まず、介護業界の人材難を解決することが先決だが、真剣に現場をリサーチしたようには、とても思えない。

 川崎市、山口県下関市、大分県杵築市、名古屋市などの介護施設で、職員が利用者を虐待する映像がニュースで取り上げられたのは記憶に新しい。全てが刑事事件であり、暴行罪に該当する。それらの映像を見ながら記者は驚きより、大いにあり得ることだと感じた。

 数年前、記者は介護現場の実態をリポートしようと、某施設で働いた。その間にホームヘルパー2級(現・初任者研修)と介護福祉士の資格は取得した。

 介護業界に身を投じて、まず初めに驚かされたのは、ヘルパー2級の資格を得るための講習の際、テキストに書かれた漢字をほとんど読めない受講者の存在だった。「老人」「枕」「有無」といった小学生レベルのものさえ、読めなかった。さらに実習先の老人ホームでは、足元に便が散乱したなかで老人たちを入浴させているさまに言葉を失った。

 ヘルパー2級は費用さえ払えば、そう苦労せずに取れる。次のステップである介護福祉士も、日本で合格者が最も多い国家試験であり、中型自動車免許の筆記試験より難しい程度だ。実技も料金を振り込めば、多くの人がパスできる。

 つまり、やさしすぎるため、常識に欠ける人間でも得られる資格と言っていい。

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