ワイン造りを天命のように…
ワイン造りを天命のように…

 フード&ワインジャーナリストの鹿取(かとり)みゆきさんが、日本ワインを紹介する。今回は、新潟県上越市北方の「岩の原ワイン マスカット・ベーリーA 2013(赤)」。

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 日本のブドウには、先人たちが生涯を捧げた末に生まれたものもある。

 新潟県の上越地方に位置する高田平野。その外れに、かつて「岩の原」と呼ばれた土地があった。一帯は、岩と石だらけで、米も他の作物もまともに育たない。

 明治の初め、農民の困窮ぶりに心を痛めた庄屋の川上善兵衛は、米に代わる作物を探してブドウに目を付けた。約500種の欧米品種を試した末に、自らブドウの交配に乗り出す。私財をつぎ込み、研究を続けた。掛け合わせた約1万種のなかに、ひときわ香り高く、色の濃い品種があった。病気にも強い。マスカット・ベーリーAと名付けたこのブドウは全国に広まり、赤ワインの原料として国内最多の醸造量を誇る。

 川上が創業した岩の原葡萄園のスタッフたちは、この品種でのワイン造りを天命のように思っている。そのため、「岩の原ワイン マスカット・ベーリーA」は、樽の香りをつけず、ブドウそのままの風味を生かして仕上げている。

(監修・文/鹿取みゆき)

週刊朝日 2015年10月9日号