プロ野球チームにとって勝ち星はもちろん、必要なのが新人育成。ましてやドラフト1位で獲った選手ならなおさらだ。東尾修元監督は、現在の西武の采配に苦言を呈す。

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 西武が球団の連敗記録を更新してしまった。36年前の79年。本拠地を所沢に移した新生・西武ライオンズが開幕から喫した12連敗を超えた。当時、私は開幕投手を務めて敗戦投手となった。2度目の登板も敗戦。阪神から田淵幸一氏、ロッテから野村克也氏らを獲得。華々しいメンバーでスタートしたが、戦力バランスはあまり良くなかったなと記憶している。

 タイ記録となった12連敗目(8月2日のソフトバンク戦)に先発したのはドラフト1位ルーキーの高橋光成だった。テレビで見たけど、左肩が三塁方向に入りすぎている。無理やり腰の回転や腕の振りでバランスをとろうとしているが、これでは制球がつきにくい。特に変化球は制球がバラバラだった。

 現場、フロントは1月の新人合同自主トレから、明確な育成方針を持っていたはずだ。その上で、完成度の低い高校生は、どこかのタイミングで悪い部分は修正しなければならない。手取り足取り直せと言っているのではないよ。長所をつぶすことなく、1軍で通用する投手に育てるために、最低限修正を施す必要があるということだ。投球フォームを見ても、1軍で通用するレベルには物足りない部分がある。2軍でどういう育成をしていたのかなと思うよ。コンディションも明らかに悪く見えたよな。

 高橋の登板に首脳陣、フロントは何を期待したのだろう。来季、1軍の先発ローテーションに入れるために、夏場以降に経験を積ませるというのなら、なぜイースタン・リーグの登板から中4日での先発なのか。成績を見ると、7月は2軍で2試合しか投げていない。調子が上がってきていない状況で、投げさせたとしか思えないな。牧田を先発から抑えに配置転換した事情があったとしても、大型連敗の中でバタバタした印象が残ってしまう。

 
 ルーキーでしかも、将来のエース候補と期待するならば、最初がすごく肝心だ。首脳陣やフロントは、育成方針同様、どういった形でデビューさせるかを考える責務がある。どこが通用して、どこが通用しないのかを選手本人が肌で感じるには、まずコンディションがいい状態で投げさせてあげることだ。

 高橋とは状況が違うが、私が西武監督だった99年、松坂大輔(現ソフトバンク)のデビュー戦を決めるのには頭を悩ませたよ。どうやったら年間を通じてローテーションを任せられるか、その軌道に乗せてあげられるか。初戦で自信をつけさせたかった。本格派向きの傾斜が急なマウンド、しかも相手投手が弱くなる開幕4戦目、4月7日の日本ハム戦(東京ドーム)を選んだ。どうしても白星からスタートさせたかった。

 近年はクライマックスシリーズ(CS)が導入され、3位までに日本一のチャンスがある。導入前と違って消化試合が少なくなり、新戦力に1軍を経験させるだけの試合数は確実に減った。西武も現在CS進出を争っている。数少ないルーキーの登板は繊細に決めるべきだと思うよ。

 大型連敗はあったが、まだ戦いは残っている。これ以上のどん底はない。なぜ連敗が起きたのか。その間、どういう形で脱出の糸口を探ろうとしたのか。何が不足していたのか。フロント、首脳陣、選手が今一度見つめ直し、終盤の戦いの力に変えてほしい。

週刊朝日 2015年8月21日号

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東尾修

東尾修

東尾修(ひがしお・おさむ)/1950年生まれ。69年に西鉄ライオンズに入団し、西武時代までライオンズのエースとして活躍。通算251勝247敗23セーブ。与死球165は歴代最多。西武監督時代(95~2001年)に2度リーグ優勝。

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