映画監督・園子温さん、女優・神楽坂恵さん夫婦は、運命を感じる不思議な符合があったという。

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妻「私の本名、いづみって言うんですけど……」

夫「うちの母親とおんなじ名前なんですよ。ひらがなで一字違い。初めて知ったときはショックでクラッとしました。『いづみ、好きだよ』とか言うの気持ち悪い!って、なかなか名前を呼べなかった。で、『恋の罪』と『希望の国』でわざわざ“いづみ”を彼女の役名に使って、だんだん慣れていったんです。映画を練習台にしちゃった」

妻「自分のお父さんがお母さんを呼んでいたのとダブるからいやだって、ずっと言ってたね」

 夫の実家は地元では知られた名門一族。父親は厳しい人だったという。

夫「とにかくうちは『犬神家の一族』みたいなんです。大家族で父親は亭主関白で、奥さん方は亭主に厳しくされている、というのを子どものころから見てきた。僕は“自分の血脈への抵抗”みたいなことを続けているうちにこういう仕事をするようになったし、結婚が遅れたのも『自分も父親みたいになるかも』という不安があったから。もういいかなと思ってようやく結婚したから、根本に『楽しくハッピーにやりたい』っていうのがあるんです。それに僕が52歳で、彼女が32歳。年の差があるから無駄に生きたくない。ヒマさえあれば1泊2日でも旅行する。夫婦ゲンカもしないし、たまになんかあったとしても1、2時間で元に戻ります」

妻「うちは本当にフツーの家庭です。両親は若いときに結婚したので、父は子温さんの5歳上くらい。菅原文太好き、ヤクザ映画が好きっていうタイプ」

 
夫「最初にお義父さんに会いに行ったとき、びっくりしたもん。向こうからトラック野郎みたいな人がきて、グラサンかけてさ。『うわ、殺される!』って思った」

妻「まあ雰囲気がね(笑)。母は私が小6のときに病気で亡くなっているんです。32歳でした。その経験があるので私の周りの人たちは、『いつどうなるかわからないから、好きなことやれ』っていう雰囲気なんですね。女優の仕事をするときも『好きなことをしろ。後悔はするな』みたいな」

夫「でも『恋の罪』みたいな映画を作ったうえでお義父さんに会うって、けっこう大変。めっちゃ濡れ場があるし……。頼むから見ていないでくれ!と思った」

妻「父も映画で脱ぐのはそんなダメじゃないんですよ。写真集とかグラビアで脱ぐのはダメって言ってたけど。それに基本的に田舎だから、映画館もないんですよ」

夫「彼女の実家はほんとに山奥で。このミカンの木の下で10代の彼女がオシャレな音楽とか必死になって聴いてたんだろうな、と思うと切ないよな」

妻「小沢健二とか、ピチカート・ファイヴとかね」

夫「ピチカート・ファイヴの一端も、あの風景のどこにもないのに(笑)」

妻「今思うとすごいところから出てきたよね。よく探し出したね、私のこと」

 
 夫はいま年1、2本のハイペースで作品を発表中。新作も15年公開分まで決定済みだ。売れっ子監督の妻として、心配はないのだろうか?

夫「(新作に出る)沢尻エリカさんに誘惑されるかも、とか?」

妻「うーん、どうかな。独身時代はいろいろすごかったと思うんですけど」

夫「結婚したら、なんかそこまでいかないですよ。いまは十分、彼女でロマンがあるから、(照れながら)いまだに一番かわいいと思うもん。たまに打ち上げとかで飲み屋に行って、彼女が遅れてくると、『お、かわいい子きたな』って思う」

妻「ありがと。嬉しい」

夫「しょっちゅう奥さんとばっかり映画を撮っているのも何かなと思っていたけど、この前、テレビ番組の企画で彼女を撮ったら、やっぱりおもしろいんだよね。本当はほのぼのした映画も撮りたいんだけど、でも妻出してほのぼの映画撮ったら『アホか』って言われそうで……。いろいろ考えるんですよ」

妻「まあ作品がよくなってくれれば、私はいいんです。そのためなら、なんでもやりますよ」

週刊朝日  2014年7月25日号より抜粋