室井佑月「何を言っても『風評』と言われるのがオチ」 〈週刊朝日〉|AERA dot. (アエラドット)

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室井佑月「何を言っても『風評』と言われるのがオチ」

連載「しがみつく女」

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 漫画「美味しんぼ」騒動で、多くの有識者やコメンテーターが各々の見解を展開するなか、作家の室井佑月氏は、「何を言っても『風評』と言われるのがオチ」とあきれる。

*  *  *
 この原稿を書いているのは5月18日。昨日、安倍総理が福島に視察にいって、「政府としては、根拠のない風評を払拭していくためにも、しっかりと正確な情報を分かりやすく提供していく」と発言した。

 小学館の「週刊ビッグコミックスピリッツ」の漫画「美味しんぼ」騒動を踏まえての発言だ。

 国民に対し、しっかりと正確な情報を分かりやすく提供していくというのは大歓迎。今までもそうしていてくれた事実があるのなら。

 原発事故後、ベントをした意味を福島県民に丁寧に説明しましたか? SPEEDIの情報をアメリカにだけ教え、国民には伝えなかったりしてませんでした?

 そんな中で、メディアの自主規制が起きた。事故が起きた直後、原稿に「放射能」「被曝」という言葉が使えなかった。あたしはそうだった。

 けれど、「あたしはそうだった」「自分は鼻血が出た」といったところで、

「で、根拠は? 風評をふりまきやがって」

 そういわれるのがオチだ。

 ある番組で「美味しんぼ」騒動へのコメントを求められた。番組内で「美味しんぼ」は風評被害を増長させるというニュースが取り上げられたのだ。

 あたしはいった。

「でも、甲状腺の異常や甲状腺がんは増えている」

 チェルノブイリ事故では4、5年後に子どもの甲状腺がん増加が確認された。福島は事故が起きて3年、8割の子どもを検査したら、がん50人、がんの疑い39人。もちろんこの結果について、「平常時じゃ考えられない」という学者もいるし、「因果関係は認められない」という学者もいる。それでも新聞に書かれた人数は現実のことだろう。

 あたしが驚いたのは、その番組が終わった後の話。ツイッターに、

「室井の無知ぶりに失笑したが、『福島で甲状腺ガンが増えてる』などのデマ発言は看過出来ない」

 などと書かれておった。

 福島県の子どもの甲状腺異常の話は、事故後から新聞で何度も取り上げられている。なのに、なかったことにしたい人が出てきてる。

 ここまでいくと、これから先、原発事故自体がなかったといい出すやつも出てくるかも。福島第一原発の話をしただけで、「風評被害!」といわれたりね。

 そうそう、そういう人たちは、憲法解釈による集団的自衛権行使では「たら・れば」話をし、だからこの国は安全策を取らなきゃという。なのに、被曝問題について考え方は真逆だ。

 放射能による健康被害は個体差もあるし、後々じんわり来るもんだという海外の報告がある。

 彼らがいう根拠とは、多数の人が同じ症状で苦しむことだったり? そんな地獄みたいな状況になってから安全策を取っても仕方ないと思うけど……。

 この国の原発が事故を起こした現実は、どうも根拠にならないようで。

週刊朝日 2014年6月6日号


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室井佑月

室井佑月(むろい・ゆづき)/作家。1970年、青森県生まれ。「小説新潮」誌の「読者による性の小説」に入選し作家デビュー。テレビ・コメンテーターとしても活躍。自らの子育てを綴ったエッセー「息子ってヤツは」(毎日新聞出版)が発売中。

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