「新選組!」などに続き4回目の出演となる大河ドラマ「軍師官兵衛」で井上九郎右衛門役を演じる高橋一生さん。実は官兵衛役の岡田准一さんとは高校の同級生だという。そんな高橋さんが、黒田官兵衛について熱く語っています。

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 有岡城に殿(黒田官兵衛)が1年以上も幽閉されて、家臣団にも「すでに殺されているのではないか」という見方が出てきます。しかし、何があろうとも殿を連れ帰る誓いがありました。幽閉されている土牢を最初に見つけたのは井上九郎右衛門です。牢番が食事を運ぶのを目撃したので生きていると思いながら、さまざまな思いに逡巡します。

 黒田官兵衛は頭の良い人ですが、ある面では危うげなところを持った人でもあります。特に九郎右衛門はクールな第二家老で、「俺がいないと官兵衛は生きていけない」と思っていたはずです。軍師官兵衛の「軍師役」ともいえる立場です。

 官兵衛が中津城に行くときにも、黒田二十四騎はついていきます。もちろん、離れ難い親愛の情からでしょうが、やはり心配だったのではないでしょうか。九郎右衛門は九州を平定するときに石垣原で大友義統の軍を破り大活躍します。黒田家4代に仕えて、黒崎城を築き1万6千石の城主にまでなった出世頭です。昨年、黒崎城まで行ったところ、官兵衛フィーバーで大変な騒ぎでした。

 九郎右衛門は史料も少ない人物なので、脚本に沿って演じていきたいと思いました。第一家老の栗山善助と第三家老の母里太兵衛に挟まれて、寡黙な役を演じています。官兵衛も最初は九郎右衛門をどんなやつだろうと思っていたに違いありません。「官兵衛殿に生涯お仕えしたい」という誓詞にも、善助と太兵衛はサインだけなのに、九郎右衛門は血判を押しています。

 黒田家臣団の結束は強い。僕は子どものころからチャンバラで遊んでいたりしたので、時代劇をやらせてもらうのは好きですね。九郎右衛門は「内に秘めて、表面には感情を出さない男」なのですが、楽しんでやらせていただいています。

 中津城に官兵衛が黒田二十四騎を連れていったのは、やはり関ケ原が長引けば、状況によっては天下を狙っていたからでしょうか。秀吉から黒田家臣団を譲ってくれと言われても断った殿のことですから。やはり、息子の長政に預けずに二十四騎を近くに置いて頼りにしていたに違いありません。晩年の福岡藩の長政時代になってからは、官兵衛のところによく来る家臣団にわざと意地悪をしていたと聞きました。長政には「そうせぬと、なかなかお前に付かぬ。俺を慕ってくるので嫌がらせをしているのだ」と説明しています。可愛らしい殿だなと思いました。

 歴史は幕末や戦国の時代が大好きですが、どういうわけか司馬さんの作品は今まで一度も読んだことはありません。役者はあくまで脚本がすべてですから、あえて読まなかったのかもしれません。

 司馬作品でとくに読んでみたいのが『空海の風景』です。座禅もやったことがあるし、山登りをして空海ゆかりの地をたどったこともあります。中国に行って短期間で勉強して戻ってきた天才です。空海に一度、どっぷり浸かってみたいと思っています。

(構成/本誌・山本朋史)

週刊朝日  2014年5月9・16日号より抜粋