白鵬土俵入りの様子(2008年)。左手前が太刀持ち (c)朝日新聞社 @@写禁
白鵬土俵入りの様子(2008年)。左手前が太刀持ち (c)朝日新聞社 @@写禁

 大相撲春場所が始まる前、3月1日のこと。大阪市の住吉大社で奉納された横綱白鵬の土俵入りで、こんな光景が見られたという。

「太刀持ちの豊ノ島と露払いの臥牙丸(ががまる)にとって、屋外での土俵入りは初めて。臥牙丸が戸惑ってました。呼び出しが先導して入場後、露払いが最初に腰を下ろすのですが、目印になる俵がない。臥牙丸はキョロキョロ。呼び出しが『そこそこ』って、こっそり教えてました(笑)」(相撲担当記者)

 実は2月、白鵬の土俵入りの太刀持ちと露払いを務めていた力士が突然代わり、まだ慣れていないのだ。

 これまで同じ伊勢ケ浜一門で友綱部屋の旭天鵬(きょくてんほう)と魁聖(かいせい)を従えていた白鵬。だが1月末に、友綱親方が白鵬の師匠の宮城野親方に「もう(2人を)貸さない」と伝えてきたという。慌てた白鵬は太刀持ちに豊ノ島(時津風部屋)、露払いに臥牙丸(木瀬部屋)を指名した。

 太刀持ちと露払いは同部屋、もしくは一門内の幕内力士が務めるのが角界の慣例だが、時津風部屋は時津風一門で、木瀬部屋は出羽一門……。宮城野部屋が属する伊勢ケ浜一門内には、同じ横綱の日馬富士がいる伊勢ケ浜部屋と友綱部屋以外だと遠藤(追手風部屋)しか幕内力士がおらず、苦肉の策だったようだ。

 それにしてもなぜ、友綱親方は「貸さない」と言いだしたのか。1月31日に実施された日本相撲協会の理事候補選挙が原因という。

「伊勢ケ浜一門は友綱親方と伊勢ケ浜親方の2人を擁立。2人とも当選しましたが、宮城野親方は伊勢ケ浜親方に票を投じたらしく、友綱親方はおもしろくなかったらしい。ここまで大人げない話は聞いたことがない」(スポーツ紙デスク)

 その状態で、春場所を迎えてしまったのだ。ベテランの相撲記者によれば、一門外の力士を従えた珍しい土俵入りをした横綱は過去にもいたという。

「印象深いのは、高砂一門の千代の富士さんが時津風一門の寺尾関を確か露払いにしたこと。1989年の九州場所で、当時関脇で上り調子だった寺尾が横綱千代の富士と対戦して果敢に攻めましたが、吊り落としで負けた。その後、千代の富士の露払いを務めたんです。横綱が生きのいい若手に目をかけて抜擢(ばってき)したと報じられましたが、実は寺尾が自分に刃向かってこないようにするために命じたのだとか」

 これまた、大人げない人の仕業だったようだ。

週刊朝日  2014年3月21日号