昨年2月の日米首脳会談の様子 (c)朝日新聞社 @@写禁
昨年2月の日米首脳会談の様子 (c)朝日新聞社 @@写禁

 安倍晋三首相(59)は、米国の怒りも意に介さず、「“媚米”ではなく、“利米”」と強気のタカ派外交路線を突っ走る。親日派のアーミテージ元国務副長官までが靖国批判をする事態になっている。

 問題がここまでこじれるきっかけは、昨年12月26日に安倍首相が米国の忠告を振り切って靖国参拝を強行したことだ。

 この直前、バイデン副大統領が来日し、日韓の関係改善を促していたこともあり、メンツをつぶされた米側は「失望した」という異例の強い表現で、安倍首相を非難した。「インサイドライン」編集長の歳川隆雄氏がこう語る。

「1月に米大使館幹部が日本の報道陣と非公式に開いた懇談でも、『靖国参拝に政権中枢の人物が強い不快の念を抱いている』という話が日本側に伝えられた。当然、バイデン副大統領のことを指しているでしょう。米国はこうした話が安倍首相に伝わることも計算に入れて、改めてシグナルを送ったのです」

 困ったことにこうした日本への厳しい見方は、メディアを通して全米に拡散しつつある。米ワシントン・ポスト電子版は、2月17日付でこんなショッキングなコラム記事を掲載している。

<観測筋は、「ワシントンと東京とのコミュニケーションの溝は、北京とのそれより深く開いた」と話した>

 外交による中国の封じ込めを目指していた安倍政権にとって、米中が接近し日本が孤立するような事態は悪夢ではないか。元外交官の孫崎享氏が警鐘を鳴らす。

「保守系の英デーリー・テレグラフ紙までが、安倍政権をハリー・ポッターに登場する『闇の帝王ヴォルデモート卿』に例えた中国大使の論文を掲載した。欧米のメディアは左右を問わず日本に批判的な論調となっており、事態は深刻です」

 そして中国は、ここぞとばかりに攻勢に出ている。

 2月27日、国会にあたる全国人民代表大会の常務委員会が、日本が降伏文書に調印した翌9月3日を「抗日戦争勝利記念日」、南京事件が始まったとされる12月13日を「国家追悼日」と制定するという法案を採択した。

 元米国務省日本部長のケビン・メア氏はこう語る。

「日本の防衛能力を向上させ、普天間基地の移設問題や特定秘密保護法を成立させた安倍首相の手腕を米政府は評価しており、靖国参拝だけで日米同盟が大きく揺らぐことはない。ただ、東アジアの安定を乱しているのは中国だと国際社会が認識してきたのに、目をそらせてしまった面はある。『失望した』という和訳も強すぎで、中国に『日米関係が悪化している』という誤解を与え、日本への挑発を誘発しかねない」

週刊朝日  2014年3月14日号