医療法人「徳洲会」の公職選挙法違反事件で、窮地に立つ徳田虎雄前理事長(75)。その彼になんと、ノーベル平和賞を与えようという動きがあったという。

「熱心なのが石井一二(いちじ)元参院議員。虎雄氏と親しい亀井静香衆院議員や海外の要人に協力を求める考えだったようです」(政界関係者)

 虎雄氏が創設した徳洲会は、発展途上国に無償で医療支援をしてきた実績があり、海外での評価が高い。ノーベル平和賞を受けるには、推薦人から候補者に選ばれる必要があるが、

「徳田前理事長は過去に、外国で推薦されたと聞いています」(徳洲会関係者)

 虎雄氏はもともと、「離島や僻地(へきち)にも医療を届ける」ことを目標に生きてきた。鹿児島・徳之島の貧しい農家で育ちながら、36歳で徳洲会を設立。一代で日本最大の医療法人に成長させた。

 ところが2002年ごろから全身の筋力が徐々に衰えるALS(筋萎縮性側索硬化症)を患い、いまや眼球しか動かせない。それでも文字盤を視線で追うことで「会話」して、病室から徳洲会を指揮してきた。

 虎雄氏を「ノーベル平和賞にふさわしい」と評する閣僚経験者はこう話す。

「日本の離島や僻地の医療は徳洲会抜きでは語れない。しかも経営は黒字。民間病院なのに災害救援もする。理想を実現する力が、ほかの人とはケタ違いです」

 一方で虎雄氏には、「悪」の顔もはっきり見える。

 移動時間を節約するため、運転手に赤信号を無視させたり、対向車線を走らせたり。これは序の口。医療改革のために政治家になることを志した虎雄氏は、1983年衆院選に出馬すると、有権者を買収するために現金をばらまいた。対立候補だった自民党の保岡興治(やすおかおきはる)陣営との乱闘騒ぎも日常茶飯事だったという。『トラオ 徳田虎雄 不随の病院王』の著者でジャーナリストの青木理(おさむ)氏は言う。

「虎雄氏は『正しい目的を実現するためには、どんな手段も正しくなる』と考えている。彼の中では善と悪が矛盾なく同居している」

 天才と狂気は紙一重ということか。

週刊朝日 2013年12月20日号