福島第一原発からの汚染水が海へ流出した問題。公表が参院選後となったことに、作家の室井佑月氏は「政府も東電も、原子力を規制する人間も、マスコミも、グルだな」と語る。

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 7月22日。参議院選挙の翌日、福島第一原発敷地内の海側の井戸から高濃度の放射性物質が検出された問題で、汚染水が海に流出している可能性があると、東京電力がはじめて認めた。これまで頑なに東電は、「汚染された地下水が海へ漏れているか判断できない」といっていた。けれど、22日の会見では、「今年5月以降には(海への流出が)起こっていた可能性がある」といいだした。

 どうしてこのタイミング? やっぱ、選挙を意識したのか。

 原発事業を推進する自民圧勝ムードに影を差すことになる。漁業団体の組織票も欲しいだろうし、なによりこんなことがニュースになったらヤバい。反自民・脱原発を訴える候補者を調子づかせることになるしな。

 23日の共同通信によると、18日の時点で、東電は流出を裏付けるデータが存在する可能性や、観測用に掘った井戸の水位の数値を、経済産業省や原子力規制庁に伝えていたらしい。ってことは、政府は知っていただろう。なのに黙って選挙をしていた? それって国民を騙したことになるんじゃないのかな。

 マスコミはどうだったのだろう。知らなかったわけないな。

 以前から、汚染された地下水が海に流れ込んでいるんじゃないかという噂はあった。何カ月も前から、個人的にそのことを指摘している専門家がいたからだ。しかし、そのことを積極的に調べ、暴こうとしたマスコミはなかったように思う。

 ということは、政府も東電も、原子力を規制する人間も、マスコミも、グルだってことになる。互いの暴走を見はらなきゃいけない立場の人間が、じつは味方同士。彼らの目的は、いかに善良な国民を騙すかになっているようだ。

 26日の河北新報によると、25日、全国漁業協同組合連合会(全漁連)の岸宏会長と福島、宮城、茨城3県の漁業団体代表が東電本店を訪ねたという。東電の広瀬直己社長に、「海洋流出は全国の漁業者と国民への裏切り行為」という厳重抗議の文書を手渡したみたいだ。

 広瀬社長は、「操業再開を目指す大事なタイミングで流出が起き、本当に申し訳ありません」と謝罪した。

 だ・か・ら、なんで謝罪の対象が操業再開を目指す漁師さんたちだけになるんだよ。できるだけ小さい問題にしたいのだろうけど、海は漁師さんたちだけのものじゃない。全漁連の方々の怒りはわかるが、そこだけで東電と話し合いをつけないで欲しい。全漁連の方々を含めた全国民との話し合いが必要だろう。

 そのためにはマスコミが頑張るべきなのだが(活動の輪を広げるために)、イマイチ信用できないんだよね。国民から絶大な信頼感を得られれば権力とも戦うことができるけど、そこを諦め権力と結びついているんだもん。ものすごい悪循環。

週刊朝日 2013年8月16・23日号

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室井佑月

室井佑月

室井佑月(むろい・ゆづき)/作家。1970年、青森県生まれ。「小説新潮」誌の「読者による性の小説」に入選し作家デビュー。テレビ・コメンテーターとしても活躍。「しがみつく女」をまとめた「この国は、変われないの?」(新日本出版社)が発売中

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