国民栄誉賞を受けることが決まった長嶋茂雄氏(77)。監督・長嶋氏の采配は、意外な選手起用で“勘ピュータ”などと揶揄され、数々の逸話を生んだ。スポーツジャーナリストの二宮清純さん(53)が、かつて長嶋氏に「理想のチームとは」という質問をぶつけた際、こんな返事が返ってきたという。

「『将来は9人野球をやりたい。監督はベンチに座っているだけでいい。それが理想ですね』と言うのです。びっくりしましたね。だって、監督はいらないってことじゃないですか。そのとき、長嶋さんの正体は『グラウンドのアナキスト』なんだと初めて気づきました。誰からも支配されない、誰からも指図されない。実際、こんなチームがあれば楽しいでしょうね」

 監督時代、長嶋氏に仕えたセガサミー硬式野球部アドバイザーの小俣進さん(61)によると、代打を出して送りバントをさせる作戦の際、長嶋氏が両手でバントの構えをしながら審判に代打を告げてしまった。チームに川口和久、阿波野秀幸という左投手がいたころには、長嶋氏の談話に「アワグチ」という選手名が「登場」した。

 ただ、小俣さんは言う。「長嶋さんがおっちょこちょいに見えるのは、あまりに試合に集中しすぎて他のことが頭に入らなくなるから。実際は、数字の記憶力がすばらしく、スコアラーのデータがきっちり頭に入っています。ただ、長嶋さんは確率が1%でも『今、かけるときだ』と感じれば思い切って起用し、成功する」と、長嶋氏の「奇跡を呼ぶ力」の秘密を語る。

週刊朝日 2013年4月19日号