2011年を表す漢字として日本漢字能力検定協会が選んだのは、「絆」だった。しかし、原発の即時全廃を訴える作家・広瀬隆氏は、被災地の福島県民にとっての意味は違ってくると怒りを代弁する。

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 昨年の一字は「絆」であると、誰もがこの文字をほめちぎっているが、福島県民にとっては違うぞ。「東京電力・福島原発事故」が福島県民の絆を断ち切り、家族の絆を断ち切り、友人・知人との絆を断ち切り、職場との絆を断ち切り、自宅との絆を断ち切り、郷里との絆を断ち切った、まさしく昨年の一字であると怒っているのだ。

 わが国最初の宇宙飛行士・秋山豊寛氏は、福島県田村市滝根で有機農業に打ち込み、椎茸を栽培するアキヤマフォームを営んでいたが、原発事故のため群馬県へ逃れ、ついに今年から京都へと移住しなければならなかった。そして著書『原発難民日記~怒りの大地から』(岩波ブックレット)の最後にこう記している。

「内部被曝している可能性のある多くの福島県民は、ゴジラになる可能性を秘めているかもしれない」と。つまり、ビキニなどの核実験で、海底深く生き延びていた古代恐竜が、怪獣となって大都市に反撃するため東京にやって来たのがゴジラだ。農民が大都会に復讐するのだ、という怒りがこの短い一文にこめられている。

※週刊朝日 2012年2月24日号