(撮影/写真部・岡田晃奈)
(撮影/写真部・岡田晃奈)

巨人・大鵬・卵焼き、カレーライスは国民食──。
一億総中流、日本人がみな同じものを食べていた時代は終わった。
ふだん何を食べているかで、人間関係も分断されている。
(編集部 大貫聡子)

* * *

 都内のジムでインストラクターをしているA子さん(34)は最近、犬2匹を連れて家を出た。自営業の夫(35)とは結婚して11年。付き合っていた時期を含めると20年近く一緒にいたことになるが、真剣に離婚を考え始めている。

 きっかけは3年前、A子さんが整体の専門学校に通い始めたことだった。栄養学の授業で、野菜や果物を中心とした健康法「ナチュラルハイジーン」を知った。もともとはA子さんも夫も大のファストフード好き。だが、好奇心で野菜中心のベジタリアン食に切り替えたところ、格段に体調が良くなった。

 変化が訪れたのは体調だけではない。夫への感情だ。高カロリーなジャンクフードを何の疑問も持たず食べ続ける夫に、違和感を覚えるようになった。

●K-POPと特攻

 決定的になったのは、A子さんがK-POPにハマってからだ。大好きなBIGBANGのDVDを見ると、夫は露骨に嫌な顔をする。上から目線で、

「君は日韓の歴史を理解した上で好きだと言っているの?」

「日本は戦後、韓国に言われっぱなしなんだよ」

 などと言うようになった。

 第2次安倍政権下で、「愛国」が取りざたされるようになると、夫の本棚には特攻隊関連の本が増えていった。今では、

「この人たちが戦ってくれたおかげで今の自分たちがある」

 とも言う。

 それまではご飯を食べながら、二人でバラエティー番組を見るのが好きだったが、今は共通の話題はほとんどなくなった。原発についても、「安く電力を供給するためには絶対必要」と譲らない夫とは話ができない。

「夜、夫が起きたら、すぐに消せるよう、テレビのリモコンを握りしめながらK-POPの映像を見ていて、何で自分の家なのに、こんなに気を使わなきゃいけないんだろうって悲しくなった。夫との距離を感じるようになりました」

●生活の延長の政治

 ベジタリアンと反原発。ジャンクフードと愛国──。

 一見何の関係もなさそうだが、ライターの速水健朗さんは昨年12月に出版した著書『フード左翼とフード右翼 食で分断される日本人』のなかで、そんな食と政治意識の相関関係を「フード左翼」と「フード右翼」と名づけた。

 食べ物をめぐる選択肢や情報があふれるいま、値段や手軽さを重視するのか、農薬や遺伝子組み換え作物の使用の有無を気にするのか。国産か、世界的大企業がつくった製品を選ぶのか。どのポイントを重視しているかで、その人の政治意識や思想が見えてくるという。

次のページ