第24回 『アガルタ』マイルス・デイヴィス、『パンゲア』マイルス・デイヴィス |AERA dot. (アエラドット)

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第24回 『アガルタ』マイルス・デイヴィス、『パンゲア』マイルス・デイヴィス

文・林建紀

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Agharta / Miles Davis (Sony [CBS/Sony])、Pangaea / Miles Davis (Sony [CBS/Sony])

 1975年は前年と同じく33人/グループが来日した。大物をあげると、

  1月 マッコイ・タイナー、マイルス・デイヴィス
  2月 オスカー・ピーターソン、エラ・フィッツジェラルド
  3月 フレディ・ハバード
  4月 クインシー・ジョーンズ・オーケストラ、サラ・ヴォーン、ペギー・リー、
  5月 アート・ブレイキー&ジャズ・メッセンジャーズ、キース・ジャレット、
  6月 ハービー・ハンコック「ヘッドハンターズ」、スティーヴ・レイシー、アニタ・オデイ、
     マル・ウォルドロン
  7月 カーメン・マクレエ、フィル・ウッズ、ゲイリー・バーツ~ジョー・ヘンダーソン~
     ノーマン・コナーズ「ダンス・オブ・マジック」
  9月 デイヴ・リーブマン「ルックアウト・ファーム」、ケニー・ドリュー~デクスター・ゴードン
  10月 サド・ジョーンズ~メル・ルイス&ザ・ジャズ・オーケストラ
  11月 ソニー・ロリンズ、レイ・ブライアント

 と、前年にも勝る大盛況となる。

 滞日中に16人/グループが23作を残した。9人/グループの12作がスタジオ録音で、来日ミュージシャンだけで録音されたのは4人/グループの4作と少なく、6人の8作は日本人ミュージシャンとの共演盤(リーダー作/ゲスト参加作/サイドマン参加作)だ。ライヴ録音は10人/グループが11作を残した。『スティーヴ・レイシー・ソロ・アット・マンダラ』『キース・スミス&ニューオリンズ・ラスカルズ』『ダンス・オブ・マジック』『ニューオリンズ・ラスカルズ&ドン・ユール』はCD化されておらず、CD化されている『ニューヨーク・ジャズ・カルテット・イン・ジャパン』『フィル・ウッズ&ザ・ジャパニーズ・リズム・マシーン』は入手が難しい。マイルスの『アガルタ』『パンゲア』、フレディの『閃光』、ハービーの『洪水』、『アニタ・オデイ・ライヴ・イン・トーキョー1975』を候補作とし、今回はマイルス作を紹介する。2作合わせて通称「アガパン」だ。

 来日は1973年6月に続き三度目となる。マイルス、サックス、ツイン・エレクトリック・ギター、エレクトリック・ベース、ドラムス、パーカッションという編成は前回と同じでサックスがリーブマンからソニー・フォーチュンに替わっていた。
グループは

  1月22日・23日/東京
  24日/名古屋
  25日/京都
  27日/札幌
  30日/小倉
  2月1日(昼夜)・2日/大阪
  3日/静岡
  4日/宮城
  7日・8日(昼夜)/東京

 と、全14公演をこなす。

『アガルタ』には2月1日の大阪公演の昼の部が、『パンゲア』には夜の部が収録された。駆け付けたのは中山康樹氏を筆頭とするマイルス者とパンダ見たさの輩ではなかったか。関西にいた筆者は行かなかった。エレクトリック・マイルスに対する反応が今一つだった時代を思えば詮もない。当夜、居合わせたジャズ喫茶「ムルソー」に中山氏が駆け込み、マスターに何事かまくしたてて立ち去ったことを昨日のことのように思い出すばかりだ。

 昼の部を収めた『アガルタ』から見て行こう。幕開けは《プレリュード》、マイルスがノリノリでリズミックに飛び跳ねる。フォーチュン(アルト)は一本調子の嫌いはあるが悪くはない。ピート・コージー(エレクトリック・ギター)にシビれた。グチョグチョでござりまするがな。続く《マイシャ》の聴き物はマイルスのオルガンとトランペットだ。後者の劇的な歌唱力には心底唸らされた。ラストは《ジャック・ジョンソンのテーマ》、前半が素晴らしい。フォーチュン(アルト)はどうということもないが、続くコージーが火炎を吹く。その終盤でリズムがシャッフルに切り換わると演奏が俄かに躍動的になる。満を持してマイルスが登場、あまりのノリの良さに舞い上がり頬は緩むは涎は垂らすは。場面換わって、フルート?が囀り、エレクトリック・ギターが咆哮し、シンセサイザーが曳光弾を放つ今風ジャングル・サウンドも聴き物だ。後半は突き抜けないままに終わる。

 結果的に昼の部は肩慣らしだった。夜の部は昼の部で会場を後にした者が地団太を踏む物凄いことになったのである。《ジンバブウェ》、レジー・ルーカス(エレクトリック・ギター)のグチョングチョン、アル・フォスター(ドラムス)のドカスカ&バシャバシャ、ムトゥーメ(コンガ)のパカポコに身を乗り出すのも束の間、マイルスがいきなり全開で天空を翔け巡る。フォーチュンがこの日一番の出来なら、コージーも怪しさを振り撒いて文句なし。マイルス、コージーと続く中盤でついにイキそうになった。《ゴンドワナ》はグルーヴ・ミュージックと言っていいだろう。しかしである。演奏は次第に熱気を帯び、三度目の出番となる終盤でマイルスは琴線をかき鳴らしてやまない必殺技で攻め立てる。「アガパンのリードで島田も揺れる」と言いたいが本当に揺らしたのは『パンゲア』だ。とはいえ『アガルタ』もマイルスが沈黙する前の屈指の名盤であり、ともに欠かせない。


【収録曲一覧】
1. Suite Sunday
Agharta
[Disc 1] 1. Prelude 2. Maiysha
[Disc 2] 1. Interlude - Theme From Jack Johnson

Pangaea
[Disc 1] 1. Zimbabwe
[Disc 2] 1. Gondwanav


Miles Davis (tp, org), Sonny Fortune (ss, as, fl), Pete Cosey (el-g, syn, per), Reggie Lucas (el-g), Michael Henderson (el-b), Al Foster (ds), Mtume (cga, per, water drums, rhythm box)

Recorded At Festival Hall, Osaka, February 1, 1975


(更新 2013.1.10 )


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プロフィール

林 建紀(はやし・たつのり)

 ジャズ研究家/翻訳家。com-post同人。1950年生まれ。同志社大学軽音楽部出身。著書に『週刊ラサーン ローランド・カークの謎』(プリズム・ペーパーバックス)、訳書に『ローランド・カーク伝 溢れ出る涙』(河出書房新社)、共著に『JAZZ TRUMPET』『JAZZ PIANO』『JAZZ SAX』(シンコーミュージック)、『読んでから聴け! ジャズ100名盤』(朝日新書)などがある。Twitterのアドレスはhttps://twitter.com/#!/tahsaan_h

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