戦後世代ながら、太平洋戦争末期の「日本軍」を題材に書き続けてきた著者の最新の戦場ミステリー。

 舞台はビルマ。中隊から切り離され、熱帯潰瘍に罹った兵隊を引き連れて転進することになった見習士官と、「戦地に疎い」若造に反発する古参兵たち。精神を病んでいた伍長が刺殺体となって発見され、一挙に疑心暗鬼が広がる。自殺かゲリラかそれとも……。

 虜囚となることを認めなかった日本軍は、行軍から脱落する傷病兵に対し、暗黙のうちに「処置」という文言で自決を強いてきた。川の中州に籠城する中、足手まといとなった仲間をどうすればいいのか。閉ざされた戦場の「狂気」を、兵隊それぞれの視点で暴きだし、ときに哲学問答を思わせる劇中対話は、出口のないジャングルに読者をひきずりこんでいく。

週刊朝日  2018年12月7日号