パルプ

ベストセラー解読

2016/07/28 11:15

 本屋に行ったら、『パルプ』の帯が前の週とは違うものになっていた。「伝説の怪作、解禁!」「やっと手に入る!」などと赤・黄・紺の文字で手書きふう。好評・大増刷につき帯を変更したようだが、場末の洋品店のポスターみたいなチープ感がいい。
 著者のブコウスキーは、だめな男を描かせたら超一流のアメリカの作家。本書は94年に死んだ彼の遺作である。帯に「やっと手に入る!」とあるのは絶版だったからだ。95年に単行本が学研から出た後、新潮文庫に入り、それが絶版になってからは幻の傑作といわれてきた。今回ちくま文庫に入って売れ行き好調なのは、待っていた人がいかに多いかを示している。
 ストーリーはむちゃくちゃだ。私立探偵ニックは「セリーヌをつかまえてほしいのよ」と依頼される。セリーヌといっても、ハンドバッグや歌手ではない。『夜の果てへの旅』で知られる反ユダヤ主義作家だ。とっくに死んでいる。依頼人は死の貴婦人、つまり死神。「目もくらむ素晴らしい体」だ。さらに赤い雀を探してくれだの(『マルタの鷹』のパロディ?)、妻の浮気調査をしてくれだのといった仕事も舞い込んでくる。しかし自称スーパー探偵のニックの仕事ぶりはいいかげんで、酒場と競馬場に入り浸るばかり。ついには美女宇宙人まで登場する。
 緻密なプロットなんて一切なし。1ページに3回ぐらい下品な言葉や描写が出てくる。タイトルは粗悪な紙で大量生産される通俗エンタメ小説誌のこと。ハードボイルド小説への皮肉や批判なのか、それともこの世の中はまるでパルプ・フィクションだぜ、という意味なのか。

週刊朝日 2016年8月5日号

パルプ

チャールズ・ブコウスキー著、柴田元幸訳

amazon
パルプ

あわせて読みたい

  • 自選 谷川俊太郎詩集

    自選 谷川俊太郎詩集

    2/6

    ジャスティン・ビーバー、ナイル・ホーランのALジャケットをパロディ?

    ジャスティン・ビーバー、ナイル・ホーランのALジャケットをパロディ?

    Billboard JAPAN

    9/26

  • 稲垣吾郎主演ミュージカル【恋のすべて】チラシビジュアル&メイキング映像公開

    稲垣吾郎主演ミュージカル【恋のすべて】チラシビジュアル&メイキング映像公開

    Billboard JAPAN

    1/18

    それまでの明日

    それまでの明日

    週刊朝日

    3/22

  • 命売ります

    命売ります

    週刊朝日

    12/15

別の視点で考える

特集をすべて見る

この人と一緒に考える

コラムをすべて見る

カテゴリから探す