書評『パルプ』チャールズ・ブコウスキー著、柴田元幸訳 〈週刊朝日〉|AERA dot. (アエラドット)

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《ベストセラー解読 (週刊朝日)》

パルプ チャールズ・ブコウスキー著、柴田元幸訳

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永江朗書評#ベストセラー解読

パルプ

チャールズ・ブコウスキー著、柴田元幸訳

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怪作 探偵小説

 本屋に行ったら、『パルプ』の帯が前の週とは違うものになっていた。「伝説の怪作、解禁!」「やっと手に入る!」などと赤・黄・紺の文字で手書きふう。好評・大増刷につき帯を変更したようだが、場末の洋品店のポスターみたいなチープ感がいい。
 著者のブコウスキーは、だめな男を描かせたら超一流のアメリカの作家。本書は94年に死んだ彼の遺作である。帯に「やっと手に入る!」とあるのは絶版だったからだ。95年に単行本が学研から出た後、新潮文庫に入り、それが絶版になってからは幻の傑作といわれてきた。今回ちくま文庫に入って売れ行き好調なのは、待っていた人がいかに多いかを示している。
 ストーリーはむちゃくちゃだ。私立探偵ニックは「セリーヌをつかまえてほしいのよ」と依頼される。セリーヌといっても、ハンドバッグや歌手ではない。『夜の果てへの旅』で知られる反ユダヤ主義作家だ。とっくに死んでいる。依頼人は死の貴婦人、つまり死神。「目もくらむ素晴らしい体」だ。さらに赤い雀を探してくれだの(『マルタの鷹』のパロディ?)、妻の浮気調査をしてくれだのといった仕事も舞い込んでくる。しかし自称スーパー探偵のニックの仕事ぶりはいいかげんで、酒場と競馬場に入り浸るばかり。ついには美女宇宙人まで登場する。
 緻密なプロットなんて一切なし。1ページに3回ぐらい下品な言葉や描写が出てくる。タイトルは粗悪な紙で大量生産される通俗エンタメ小説誌のこと。ハードボイルド小説への皮肉や批判なのか、それともこの世の中はまるでパルプ・フィクションだぜ、という意味なのか。

週刊朝日 2016年8月5日号


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