書評『最後に見たパリ』エリオット・ポール著/吉田暁子訳 |AERA dot. (アエラドット)

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《話題の新刊 (週刊朝日)》

最後に見たパリ エリオット・ポール著/吉田暁子訳

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笠間直穂子#話題の新刊

最後に見たパリ

エリオット・ポール著/吉田暁子訳

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 両大戦間のパリに暮らしたアメリカ人の作家・ジャーナリストによる随筆。文学者・吉田健一が絶賛した名作の本邦初訳だ。
 著者が住んだユシェット通りの個性豊かな住人たちを描くのだが、人情味あふれるパリの下町を写す筆致は、次第に暗い影につつまれる。それもそのはず、著者がパリに降りたったのは1923年で、当地を離れたのは40年、パリがドイツに占領された年だ。原書刊行は42年、占領期の真っ直中。著者が哀惜とともに描き出すのは、戦争によって失われたパリの姿なのだ。
 ユシェット通りのホテル、「オテル・デュ・カヴォー」に著者が迷いこんだいきさつから物語ははじまる。一見怪しげな食堂の地下に、中世そのままの酒倉と台所があり、金はなくとも真剣に心豊かに生きる人々がいた。控えめで良心に満ちたホテルの主人アンリさん、毒舌家の老婆アプサロム夫人、感性鋭い早熟な少女イアサント……。活き活きとした住人たちが、国情が切迫するにつれて反目しあう光景は胸をえぐる。人間への愛情と、厳しい観察眼が光る。

週刊朝日 2013年4月19日号


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