武蔵野東中学(東京都小金井市)は、学校生活を健常児と自閉症児がともに過ごす「混合教育(インクルーシブ教育)」を実践する、国内でも珍しい私立中学だ。普通高校を併設していないため、健常児クラスの生徒は全員高校を受験するが、難関の国公立・私立高校に4割の生徒が進学するという。どんな学校なのか。

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■向かい合わせや隣同士の教室

 武蔵野東中学校は、全校生徒300人あまりの小規模な学校だ。1学年5クラスのうち、A、Bの2クラスは健常児各30人が在籍。C、D、Eの3クラスは自閉症児各12人の少人数クラスに在籍している。健常児クラスと自閉症児クラスは別課程なので入試も在籍クラスも分かれるが、ABとCDEクラスは向かい合わせや隣同士になっており、廊下に面した大きな窓からは、お互いの様子をうかがうことができる。

 3年A組の中平野恵さんは、授業中にふと向かいのクラスに目を向ける。楽しそうに授業を受けている向かいのクラスの同級生の姿を見ると心が温かくなり、「よし、がんばろう」という気持ちになるという。

「朝の掃除や生徒会活動など、一緒に行う機会を日常的に設けています。今はコロナで中止になっていますが、給食もクラスの数人が入れ替わって一緒に食べています」(菊地知恵子校長)

 朝の掃除では、床のゴミひとつ見逃さない生徒、電話機のボタンの隙間まで丁寧に磨いている自閉症児クラスの生徒を見守りながら、健常児クラスの生徒が一緒に机を動かし床を掃いていた。

 中3の自閉症児クラスの担任、岩本淳二教諭は言う。

「自閉症の生徒にとって同じ年の友だちと一緒に過ごすことは、我々教員からとは違う学びがあります。健常児クラスの生徒の言動や行動から、良い刺激を受けています。同時に、健常児クラスの生徒たちも自閉症児クラスの生徒たちの純粋さやひたむきさに感化されており、お互いに良い影響を与え合っていると感じます」

 3年A組の腰原祐哉さんは、入学してから自閉症に対する考え方が変わったという。

「入学前は意思が通じないのでは、と思っていました。でもゆっくりと話せば理解しあえるし、それに集中力がすごい。学園祭などで発表する絵画や工芸作品には、驚かされます。熱心にコツコツと取り組む様子を見て、見習わなくては、と思うことも多いです。

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柿崎明子
ライター 柿崎明子

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